2021 Fiscal Year Annual Research Report
全てのリン酸化酵素を標的としたフォールディング中間体阻害の評価系構築
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19H02856
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
喜井 勲 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (80401561)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リン酸化酵素 / DYRK1A / フォールディング中間体 / 阻害剤 / キノーム |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、精製リン酸化酵素タンパク質とフォールディング中間体選択的阻害剤を混合し、その溶液を瞬間的に加熱・冷却することで、選択的阻害剤が標的リン酸化酵素に対して結合し、活性を阻害することを明らかにした。条件などを検討した結果、8種類のリン酸化酵素に対して適用可能なフォールディング中間体選択的阻害の評価系の構築に成功し、この技術を「温度ジャンプ」と命名した。さらに、本技術を用いて化合物スクリーニングを実施し、リン酸化酵素DYRK1Aのフォールディング中間体を選択的に阻害する新規化合物の同定に成功した。これらの研究成果のPCT出願を完了した。 加えて、FINDYの構造類縁体の中から、阻害活性が100倍高い新規化合物を同定し、dp-FINDYと命名、さらに論文として発表した(Miyazaki et al. Eur J Med Chem 2022)。また、DYRK1Aの活性ドメインに対してFINDYが直接結合することを解明し、論文として発表した(Kimura et al. Protein Expr Purif 2022)。 製薬企業各社への本技術「温度ジャンプ」の紹介を行い、非独占実施許諾契約によるライセンスアウトや、共同研究などに向けた話し合いを進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
タンパク質のフォールディング中間体は、通常その生合成過程にしか出現せず、しかも不安定な構造であるため、試験管内でその中間体に対する選択的阻害剤の作用を評価することは不可能である。当初、cell-freeタンパク質合成系を用いることで、この課題の解決を目指してきたが、この方法は対象とできるリン酸化酵素が限定的であることが問題であった。令和2年度、3年度に、タンパク質のフォールディングが熱力学的平衡状態にあることに着目し、温度を厳密に制御することで、フォールディングの完了した精製タンパク質から、試験管内でフォールディング中間体を作り出すアイデアを着想し、その実現に取り組んだ。その結果、シンプルな方法の確立に成功し、「温度ジャンプ」と命名した。この方法の良いところは、リン酸化酵素以外の、構造形成にフォールディングを経るあらゆるタンパク質に適用できる点である。当初予定していたすべてのリン酸化酵素への適用の範囲を超え、天然変性タンパク質などの立体構造を取らないものを除いて、すべてのタンパク質に対して適用できる可能性を持った技術の確立に成功したことは特筆すべき成果であると考えている。本技術は、国内出願とPCT出願を完了し、すでに国内外の多数の製薬企業に対して紹介している。すでにライセンス契約を締結、ないしはそれに向けて話し合いを進めており、本技術の有用性が技術導出の点で支持されたと考えている。今後は、学術論文に発表することで世界の研究者に向けて技術紹介を行い、さまざまな他の技術と組み合わせて、創薬スクリーニング技術の発展に貢献できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、本技術「温度ジャンプ」を全リン酸化酵素へと拡張することを目的として以下の研究を実施する。(1)リン酸化酵素フォールディング中間体選択的阻害様式の理論構築では、タンパク質のフォールディング過程を数学的に記述する方程式を構築し、中間体選択阻害による平衡状態の遷移と、その温度依存性を理論的に説明することを試みる。中間体阻害と完成型阻害の直接的な比較を可能とする定数の算出を目的とする。(2)リン酸化酵素DYRK1Aをモデルとして分子動力学シミュレーションにより温度ジャンプ時の阻害剤結合様式を解明では、温度ジャンプによりFINDYが標的とするフォールディング中間体構造が出現したことを勘案し、シミュレーション上で完成型タンパク質構造を加熱し不安定化することで、FINDYの結合する構造が出現すると予測される。研究では、加熱時の出現構造をサンプリングし、それぞれに対してドッキングシミュレーションを行うことで、FINDY結合構造の同定を進める。(3)リン酸化酵素ABLのフォールディング中間体を標的とする化合物のスクリーニングでは、リン酸化酵素ABLの活性ドメインのリコンビナントタンパク質を調整し、DYRK1Aの場合と同じ研究スキームにより、フォールディング中間体選択的阻害剤が同定できるかを検証する。加えて、以上の成果を取りまとめ、本技術「温度ジャンプ」の論文を作成し、学術雑誌へ投稿する。
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Research Products
(6 results)