2020 Fiscal Year Annual Research Report
細菌における多様なリグニン由来芳香族化合物の外膜・内膜輸送システムの全容解明
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19H02867
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
政井 英司 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (20272867)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菱山 正二郎 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (00353821)
桑原 敬司 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (50525574)
城所 俊一 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (80195320)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リグニン / 芳香族化合物 / 外膜輸送 / 内膜輸送 / Sphingobium属細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
SYK-6株のmajor facilitator superfamily (MFS)輸送体遺伝子破壊株について、バニリン酸、シリンガ酸、フェルラ酸の取り込みをpH 9.0で評価した結果、バニリン酸とシリンガ酸の取り込みにプロトカテク酸輸送体のPcaKが主要に働くことが示された。しかしpcaK破壊株に取り込み能が残存していたことから、他のMFS輸送体遺伝子も関与すると考えられる。一方、フェルラ酸の取り込みにはPcaK以外の輸送体の関与が大きいことが示唆された。 リグニン由来芳香族化合物の外膜輸送体については、これら化合物での培養時に発現が誘導されるTonB-dependent transporter (TBDT)様遺伝子の破壊株の各化合物の変換能あるいは生育能を評価した。しかし、遺伝子破壊の顕著な影響は認められなかった。TBDTがビフェニル型及びフェニルクマラン型化合物以外の外膜輸送に関与するかを調べるために、tonB1-exbB1-exbD1-exbD2をSYK-6株にプラスミドで導入して高発現させた結果、複数のリグニン由来芳香族化合物の変換能が向上し、TBDTの外膜輸送への関与が示唆された。加えてexbB2/tolQ、exbD3/tolRが外膜の安定性に関与することが示され、さらに発現量が高い特定のTBDT様遺伝子が外膜の安定性に関わることが推察された。 フェニルクマラン型化合物の外膜輸送に関与するphcTの破壊株の解析から、PhcTはデヒドロジコニフェリルアルコール (DCA)の2つの代謝中間体の取り込みに関与することが示され、カルボキシ基を持つフェニルクマラン型化合物に特異性をもつことが明らかとなった。また、PhcTが外膜に局在すること、(+)-DCAよりも(-)-DCAに対してやや高い選択性を有すること、plug domainがその機能に必須であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの解析により、フェニルクマラン型化合物の外膜輸送に関与するPhcTの機能が明らかとなり、本輸送体の代謝上の役割が以下の様に推定された。SYK-6株のDCAでの生育時には代謝中間体であるDCA-Cが細胞外に一部排出される。これはSYK-6株のDCA-C変換酵素の活性が他のDCA代謝酵素の活性と比較して低いことに起因すると考えられる。PhcTはこの様なDCA代謝系の特性上排出されてしまうDCA-Cを細胞内に取り込むことで DCAを無駄なく代謝するための役割を担うと予想される。今年度、リグニン由来芳香族化合物の培養時に誘導されるTBDT遺伝子を中心に解析を行なったが、これら遺伝子のグニン由来芳香族化合物の取り込みへの関与は認められなかった。一方でTon複合体遺伝子の高発現により複数のリグニン由来芳香族化合物の変換能に向上が見られたことから、既知のTBDTとは系統的に異なるSYK-6株に特有の遺伝子がこれらの外膜輸送に関わっている可能性が考えられる。加えて今年度は外膜輸送だけでなく、外膜の安定性に関わると推定されるTol-PalシステムやTBDT様遺伝子についての知見を得た。内膜輸送については、pH 9.0の条件においてリグニン分解の主要な中間体であるバニリン酸とシリンガ酸の取り込みにPcaKが主要な役割を担うことが明らかとなった。本研究のこれまでの成果の一部として、SYK-6株による鉄の取り込みに関与するTBDT遺伝子及びリグニンからの物質生産に多用されるプラットフォーム微生物であるPseudomonas putida KT2440株のリグニン由来芳香族化合物の内膜輸送体遺伝子について2報の論文を国際誌に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
【リグニン由来芳香族化合物の内膜輸送体遺伝子の同定】pcaK破壊株におけるバニリン酸、シリンガ酸、フェルラ酸の変換能は野性株と比較してpH 9.0で低下した。しかし各基質に対する変換能が残存していたことから他の輸送体遺伝子の関与も示唆された。pcaK破壊株による各基質の変換はプロトノフォアまたはATPase阻害剤によって顕著に低下したことから、まだ十分に検討されていないaromatic acid/proton symporter以外のMFS輸送体および新たにABC輸送体遺伝子に着目し、必要に応じて破壊株を作製し、各基質の変換能と生育能、取り込み能を評価する。 【リグニン由来芳香族化合物の外膜輸送体遺伝子の同定】SYK-6株に存在する74個のTBDT遺伝子のうち、機能既知のTBDTと系統的に異なる遺伝子の破壊株を作製し、各リグニン由来芳香族化合物での生育能、変換能を網羅的に調査する。SYK-6株は、取り込みに関与する既知のポーリン遺伝子と相同性を示す遺伝子を持たないが複数のOmpA様遺伝子を有する。これらポーリン遺伝子の各リグニン由来芳香族化合物取り込みへの関与も調べる。 【SYK-6株で高発現するTBDT様遺伝子破壊株の解析】TBDT様遺伝子の一つは非誘導時にもきわめて高く転写されていた。本遺伝子の破壊株はLBでの生育能がやや低下し、界面活性剤に対する感受性が増していたことから、このTBDT様遺伝子産物が外膜の安定性に関わることが推察された。また本遺伝子破壊株では外膜タンパク質の量的減少が認められたことから、本株は他の外膜輸送体遺伝子を過剰発現させるための宿主として有用と期待される。今年度は本TBDT様遺伝子破壊株で他のTBDT遺伝子の発現を試み、外膜タンパク質生産制御の可能性を探る。
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Research Products
(4 results)