2019 Fiscal Year Annual Research Report
糖非発酵性細菌ペプチダーゼ類を標的とした新規阻害剤配合剤の開発
Project/Area Number |
19H02876
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
田中 信忠 昭和大学, 薬学部, 准教授 (00286866)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 糖非発酵性細菌 / ペプチダーゼ / 立体構造 / 抗菌剤 / ドラッグデザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
歯周病は世界で最も感染者の多い疾患であり、心筋梗塞や動脈硬化のような生活習慣病の危険因子でもある。しかし、歯周病に関与する慢性歯周炎原因菌Porphyromonas gingivalis(Pg)を標的とする特異的抗菌剤は無い。一方、Stenotrophomonas maltophilia(Sm)は、日和見感染菌として知られ各種抗生物質に耐性を示す。従って、多剤耐性Smに有効な新規抗菌剤が必要である。Pg及びSmのいずれも糖非発酵性細菌であるため、それらのペプチド代謝経路は抗菌剤の標的となる。本研究は、Pg及びSmに対する抗菌活性に優れた「阻害剤配合剤」を開発するため、ヒトに存在しないタイプのペプチダーゼ類の立体構造に基づく阻害剤開発を展開し、酵素活性部位に結合する阻害剤構造(フラグメント)の最適化とそれらフラグメントの「伸長」や「融合」による酵素活性阻害能及び抗菌活性向上を目指すものである。 2019年度は、先行研究において見出したPorphyromonas gingivalis由来dipeptidyl peptidase 11(PgDPP11)に関し選択的阻害能を有する非ペプチド性化合物(SH-5)とPgDPP11との複合体の立体構造解析、構造精密化、歯周病菌増殖阻害能評価を実施した。さらに、SH-5の類似化合物としてNPPBを見出し、SH-5と比較して脂溶性の高いNPPBが有意な歯周病菌増殖阻害能を示し、PgDPP11阻害剤開発のリード化合物として有望であることを明らかにした。Stenotrophomonas maltophilia由来dipeptidyl peptidase 7(SmDPP7)に関しては、S2サブサイトの特異性解析のための生化学実験並びにジペプチド類との結晶化と構造解析を実施し、ジペプチド複合体4種類の結晶化に成功し、現在構造精密化を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の到達目標は次の3項目に大別されるものであった。(1)先行研究で見出した化合物(S1サブサイトに結合する化合物X (= SH-5)とS2サブサイトに結合する化合物Y)の構造最適化。(2)In silicoスクリーニングによるPgDPP11およびSmDPP7の新規阻害剤の探索。(3)PgDPP7, PeDPP7, PeDPP11, SmDPP11の発現・精製・結晶化・構造解析。 (1)に関しては、概要に記載したように、PgDPP11阻害剤として見出したSH-5の構造類似体であるNPPBが歯周病菌に対して有意な増殖阻害能を示し、かつ類縁酵素を持たない微生物である大腸菌に対しては増殖阻害を示さないことを明らかにした。(2)に関しては、PgDPP11とSH-5との複合体の活性部位の構造情報から設定したファーマコフォアを用いたin silico探索により、SH-5とは全く異なる骨格を有する新規化合物Zを見出した。現在、化合物Zの活性評価並びにPgDPP11との複合体の結晶化に取り組んでいる。(3)に関しては、いずれも大腸菌を用いた発現系構築を終え、収量の大小はあるものの精製に成功している。いくつかに関しては、結晶化、回折強度データの収集まで進んでいるが分解能が悪く、結晶化条件の改良中である。 以上の結果をふまえ、(3)に関してはデータの質に改善の余地があるものの、(1)と(2)に関し予定通りの成果が得られていることから、計画初年度である今年度の進捗状況は「おおむね順調」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
計画2年目である2020年度は、以下のような方針で研究を進める。 1.阻害剤の構造最適化:2年目以降は、化合物XやYの最適化と共にそれらの伸長や融合(Fragment-Based Drug Designの手法)による酵素活性阻害能及び抗菌活性向上を目指す。新規に同定された化合物Zに関しても複合体の結晶化・構造解析を進め、結合部位を特定する。その結果得られた構造情報を利用して同様に構造最適化する。最終的に、P1残基特異性の異なる2種類の酵素(DPP7:疎水性/DPP11:酸性)を確実に阻害する複数の阻害剤(S2サブサイトに結合する母骨格Yで結合能を担保し、S1サブサイトに結合する母骨格Xの違いで標的酵素の基質特異性に対応させる)を得て配合剤としての実用化を目指す。 2.実用化へ向けた阻害剤の評価:有望な化合物類及びそれらの誘導体に関し、研究代表者による阻害能の酵素化学的(合成基質切断を蛍光検出)・物理化学的(Biacoreで結合強度算出)評価に加え、試験管レベルの菌体増殖抑制能評価を共同研究者(研究協力者)である小笠原渉教授(長岡技術科学大学)へ依頼する。また、小笠原教授の共同研究グループに、感染モデルマウスに対する阻害剤の効能評価を依頼する。 3.PgDPP7, PeDPP7, PeDPP11, SmDPP11の立体構造解析:初年度に引き続き、これらの酵素に関し、結晶化条件の探索と最適化、シンクロトロン放射光を用いた回折強度データの収集、構造解析を進める。結晶が得られても良好な回折強度データが得られない場合は、国際宇宙ステーションを利用した微小重力下における結晶化を試みる。
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Research Products
(5 results)