2019 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト由来細胞小胞体におけるタンパク質のジスルフィド結合形成機構
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19H02881
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
門倉 広 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (70224558)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ジスルフィド結合 / 哺乳動物 / フォールディング / 分泌タンパク質 / 小胞体 / PDI |
Outline of Annual Research Achievements |
ジスルフィド結合の形成は多くの分泌タンパク質の立体構造形成に重要である。ヒト細胞表層タンパク質LDLレセプター(LDLR)上には、ジスルフィド結合は7個のRドメインと3個のEGFドメインの各々に3本ずつ存在する。研究代表者らはこれまでに、翻訳合成途上のLDLRの新生ポリペプチド鎖(新生鎖)にジスルフィド結合が導入される過程を観察するための系を構築するとともに、LDLRの翻訳合成の初期段階では、Rドメインに間違った組み合わせのジスルフィド結合が形成されること、また、この非天然型のジスルフィド結合が天然型に組み換えられて、正しいこと立体構造に折り畳まれるためには、その遥か下流に存在するβプロペラドメインが必要であることを見出していた。2019年度には、様々な変異体を利用した解析から、βプロペラドメインの約半分が翻訳合成され、サブドメイン1と2が小胞体内へと輸送されると、上流のRドメイン中に形成されていた非天然型のジスルフィド結合が天然型のジスルフィド結合に組み換えられることが判明した。また、LDLRは3箇所にN糖鎖付加部位を持つが、今回、それぞれの糖鎖付加部位を変異させた変異体を利用した解析によって、各事象が起こるタイミングをより正確に把握することが可能になった。一方、βプロペラドメインのサブドメイン1と2内に存在する翻訳速度の低下部位やLDLR上のN糖鎖付加部位は、当初の予想に反して、Rドメインの折り畳みとは関連がないことが判明した。ジスルフィド結合の組み換え反応は、複数のドメインをもつ様々な細胞表層タンパク質の立体構造形成において鍵となる反応ステップである。以上の解析から、ジスルフィド結合の組み換え反応は、これまでに考えられていたよりも遥かに早い段階において、精緻な制御のもと、進行しうることが初めて明らかになった。以上の発見をまとめてPNAS誌に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、LDLR上に存在するN糖鎖付加部位などは、LDLRのRドメインの折り畳みに重要な役割を果たすと想定していたが、概要で説明したように、得られた結果は、必ずしも当初に想定していたものと同じではなかった。そのため、当初のモデルやその後得られた結果をもとに考えた新しいモデルをもとに、2019年度に、膨大な数の変異体を作成し、試行錯誤をしながら、徹底的に解析を行った。その結果、LDLRの折り畳みのメカニズムに関して、より厳密な議論が可能になり、予想外の新たな発見もうまれた。そのことが、前述の論文の発表につながった。この論文は、発表後、Elizabeth A. Miller博士等による総説「Membrane protein folding and quality control」で、「特別に興味深い論文」として取り上げられ、その内容が詳しく紹介されるなど、高く評価されている。これらの点から、研究は概ね順調に進んでいると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
次のようなアプローチによって分泌タンパク質の立体構造形成のメカニズムの解析を推し進める。 1. 新生鎖の立体構造形成における、各PDIファミリー酵素の役割の解明 翻訳と同時に進行するLDLRの立体構造形成は3つのフェーズに区分される。PDIファミリー酵素は小胞体内に20種類も存在するが、その役割の違いはよく分かっていない。この点を解明する目的で、まず、各フェーズで働く酵素を同定する。既に、PDIファミリー酵素のうちの6種類がLDLRと結合することを見出しているが、これらがどのようなタイミングでLDLRの新生鎖と結合するのかは不明である。この点を明らかにするためには、新生鎖と各PDIファミリー酵素がどのようなタイミングで結合するのかをLDLRのN末端に付与したFLAGタグに対する抗体と各PDIファミリー酵素に対する抗体で2重免疫沈降を行うことによって解明する。得られる知見は、我々の健康を維持していく上で重要なLDLRの生合成の理解に寄与するだけでなく、小胞体におけるタンパク質の立体構造形成のメカニズムの一般原理やPDIファミリー酵素の役割分担の理解に、大きく貢献するはずである。 2.ジスルフィド結合形成モニタリング系の改良 本研究では、新生鎖を検出するために、放射性のメチオニンとシステインを利用している。新生鎖の鎖長が短い段階ではこれらのアミノ酸残基の数が少ないため、取り込まれる放射能が少なく、新生鎖の検出が困難である。よって、翻訳合成の初期過程におけるジスルフィド結合形成状態を解析することは極めて困難である。そこで、LDLRの成熟型タンパク質のN末端にメチオニン残基を多数導入したLDLR変異体を作成し、その性質を解析する。系が上手く動けば、翻訳の初期過程におけるLDLRの立体構造形成の解析をすすめる。
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Research Products
(9 results)