2020 Fiscal Year Annual Research Report
Chemical characterization of colibactin and understanding a mechanism of an onset of colorectal cancer by colibactin
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19H02898
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
渡辺 賢二 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (50360938)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コリバクチン / 遺伝毒性物質 / 天然物 / 生合成 / 大腸がん |
Outline of Annual Research Achievements |
clb clusterによって生合成されている低分子化合物が遺伝毒性物質の本体と考えられ、「コリバクチン」と命名されている。コリバクチンが大腸がんのリスク因子であるならば、大腸発がんの診断マーカーとしての活用や、その除去による大腸がんリスクの低減が期待できる。しかし、世界において強い注目を集める化合物でありながら、コリバクチン自体の検出は達成されておらず、化学構造は未決定であった。この事がコリバクチンの発がん作用機序の解明やマーカーとしての応用利用においての障壁となっていた。 コリバクチンは生合成遺伝子群(clb cluster)が特定されているため、相同性検索からclb cluster中の各酵素の機能を推測し、遺伝子破壊や異種発現、生合成中間体誘導体の単離や合成などによりコリバクチンの構造に迫る研究が、複数のグループから報告されている。近年までにClbOとClbLを除く、大半の生合成遺伝子の機能は明らかにされていた。コリバクチンの生合成では、プロドラッグ戦略が採用されていることが報告されている。すなわちPKSやNRPSのアセンブリーラインにより構築された非活性型の前駆体(プレコリバクチン)から、ペプチダーゼであるClbPによりN-myristoryl-D-asparagine(myr-asn)が切断されることで、活性型のコリバクチンへと変換されていることがわかっている。 このような背景のもと、我々はコリバクチンの化学構造の解明を目標としてコリバクチンの研究を開始した。まず手始めにコリバクチン生産菌の獲得のために、コリバクチン本体ではなく、生合成機構などを応用した実用的なコリバクチン生産菌の検出方法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
腸内細菌叢を構成する一部の大腸菌が動物細胞に接触すると、動物細胞のDNA二重鎖の切断および遺伝子変化による遺伝毒性が生じることが報告され、これらの菌が大腸がんのリスク因子である可能性が指摘されていました。これら大腸菌が生合成する天然有機化合物が遺伝毒性物質の本体と考えられ「コリバクチン」と命名されています。しかし、世界において高い注目を集める化合物でありながら、コリバクチン自体の検出は達成されておらず、化学構造は未決定のままでした。我々が分離したコリバクチン高生産株より、今回世界で初めてコリバクチンを捕らえることに成功しました。コリバクチンは極めて反応性が高く、容易に溶媒などの求核性の物質が付加し、複数の化合物へと分解する性質があり、加えて非常に微量な生産量であることが、コリバクチンをこれまで検出できなかった要因であると結論づけられました。この事がコリバクチンの発がん作用機序の解明やマーカーとしての応用利用においての障壁となっていましたが、本研究成果により今後大腸発がんの予防マーカーとしての活用や、その除去による大腸がんリスクの低減が期待できます。
本成果は、化学分野において最も権威のある国際化学雑誌『Journal of the American Chemical Society』(Impact Factor: 14.612) 電子版に2021年3月31日付けで掲載されました。
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Strategy for Future Research Activity |
日本人における大腸がん患者の64%(健常成人コリバクチン産生菌保菌率27%)が本菌の保有者であることを明らかにした。また、我々はヒトの大腸がん組織検体より数十株のコリバクチン生産菌の分離、培養に成功し、ある種の株(E. coli-50と命名)は既報のコリバクチン産生菌と比較して数10倍もの高生産量を示した (Hirayama, Y. et al. Org. Lett. 2019)。更に、E. coli-50は哺乳動物細胞に小核を誘発するとともに、コリバクチン特異的なDNA鎖切断活性を示し (Kawanishi, M. et al. J. Toxicol. Sci. 2019)、マウス大腸にも遺伝子傷害を誘発した。また、ヒト大腸がん由来のE. coli-50の培養液より分離したコリバクチンの化学構造を明らかとした(論文投稿中)。更に、疫学およびヒト介入試験より乳酸菌がコリバクチン産生菌の阻害因子であることを明らかにするとともに(Watanabe, D. et al. Sci. Rep. 2020)、コリバクチン産生菌の感染は新生児から乳児期における母子感染が主な感染ルートであることを強く示唆する結果を得た。そこで本研究では、新規大腸がんの高リスク群の把握と大腸がんの予防方法を提案する事を目指して、(1)コリバクチンによる発がんメカニズム解明、(2)コリバクチン産生菌の陽性日本人大腸がん組織の変異シグネチャー解析、(3)コリバクチン産生菌の感染ルート確定、(4)血液及び糞便を用いたコリバクチン産生菌感染の高感度検出法の確立、(5)コリバクチン産生菌の増殖抑制及びコリバクチン産生阻害因子の探索の5つの研究開発項目を設定し取り組む。
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Research Products
(5 results)