2021 Fiscal Year Annual Research Report
油脂の嗜好性が肥満を誘導する機構と肥満を抑制する機構
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19H02909
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
松村 成暢 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学研究科, 准教授 (70467413)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 勉 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座准教授 (20534879)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 肥満 / 油脂摂取 / 嗜好性 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで油脂の摂取は交感神経を刺激し、末梢組織でエネルギー消費を亢進させることを明らかにしてきた。交感神経末端より放出されるノルアドレナリンはアドレナリン受容体と結合し、エネルギー消費に関わる臓器である筋肉や脂肪組織中の細胞内cAMPを増加させる。この一連の反応により油脂の摂取は筋肉や脂肪組織でのエネルギー消費を増加させると推測される。 しかしながら、交感神経によるエネルギー代謝調節は不明な点が多い。そこで、筋肉と脂肪組織特異的にcAMPを増加させ、全身のエネルギー消費に与える影響および摂食行動に与える影響を検討した。cAMPを上昇させる作用を持つGsとカップルしたGs-DREADD ( Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs)を骨格筋細胞または脂肪細胞特異的に発現したマウスを新たに作成し検討を行った。はじめにDREADD作動薬を骨格筋特異的GsDREADDマウス(Muscle-GsD)に投与し、検討を行った。DREADD作動薬をMuscle-GsDマウスに投与すると、わずかなエネルギー消費の低下と摂食量の低下が観察された。一方でGsDREADDを発現しないコントロールマウスにDREADD作動薬を投与してもエネルギー消費や摂食量に変化はみられなかった。次に、脂肪細胞特異的GsDREADDマウス(Adipo-GsD)にDREADD作動薬を投与すると、エネルギー消費の顕著な増大と摂食量の低下が観察された。以上の結果より油脂の摂取に伴うエネルギー消費の亢進は交感神経を介し、脂肪組織で引き起こされることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
骨格筋におけるcAMPの上昇はエネルギー消費の亢進を強く引き起こすと予想していたが、実際にはほとんどエネルギー消費に変化は見られないという新たな知見を得た。油脂の摂取に伴うエネルギー消費の亢進に骨格筋は関与しないのかもしれない。しかしながら、交感神経末端より放出されるノルアドレナリンは骨格筋のcAMPのみならずカルシウムなど様々なセカンドメッセンジャーを上昇させる。また交感神経末端からノルアドレナリン以外の神経伝達物質が放出されることも報告されている。このためcAMP以外の物質が骨格筋のエネルギー消費に影響を与えるという新たな経路の可能性が示唆された。 また、脂肪細胞中のcAMPを上昇させると、エネルギー消費が大きく亢進するのに加えて摂食量が顕著に低下するという新たは知見が得られ、当初の目標は概ね達成できたため。
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Strategy for Future Research Activity |
油脂の摂取による肥満の原因の一つとして脳機能の変化が考えられる。実際、過食症患者では、食べ物による視覚嗅覚刺激に対して脳の応答性が健常人と比較して大きく異なる。その他、味覚感受性、満足感の低下など様々な脳内変化が観察される。脳神経細胞は一部例外を除いて成人では新しく新生することはないため、脳機能の変化は特定神経細胞の遺伝子発現変化によるものと推察される。そこで神経細胞の機能を調節する最も重要な転写因子CREBに着目する。CREBを特定の神経細胞特異的に欠損させたマウスを作成し、油脂摂取に与える影響を明らかにする。
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