2019 Fiscal Year Annual Research Report
上流ORFが関与する細胞環境感知機構の解明とゲノム育種への応用
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19H02917
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
尾之内 均 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (50322839)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | uORF / リボソーム / 環境応答 / 栄養応答 / 新生鎖 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 細胞内環境感知機構の解析 mRNA の 5′ 非翻訳領域に上流ORF (uORF) と呼ばれる小さな ORF が存在し、そこにコードされる新生ペプチド(uORFペプチド) が自身を翻訳したリボソームの機能に影響を与えることによって翻訳を制御する場合がある。研究代表者はこれまでにシロイヌナズナにおいて、細胞内のMg濃度に応じて翻訳を制御するuORFペプチドを見出した。2019年度の研究では、翻訳反応に必要な因子のみを含む再構成試験管内翻訳系を用いてそのuORFを翻訳した場合にも、Mgに応答したリボソームの停滞を再現できることを明らかにした。このことから、uORFペプチドを含む翻訳複合体が直接的にMgを感知してリボソームを停滞させることが示唆された。また、ゲノム編集を用いてそのuORFを破壊した植物のMg含有量をICP-MS解析により測定したところ、野生型植物と比較してMg含有量の有意な増加がみられた。このことから、このuORFが介するMgに応答した翻訳制御が細胞内Mg濃度の恒常性維持に寄与することが明らかとなった。 また、別のシロイヌナズナ遺伝子のuORFが関与するポリアミンに応答した翻訳制御機構を解明するために、uORFペプチドのアミノ酸残基とuORFのコドンの中からリボソームの停滞に関与するものを探索した。その結果、C末端から11番目のアミノ酸残基とuORFの終止コドンがリボソームの停滞に特に重要であることを見出した。
2. ゲノム編集を用いたuORFの破壊による作物育種 タンパク質発現量を増加させることで有用な形質が付与されると考えられるイネとトマトの遺伝子の中から、uORFによって翻訳が強く抑制されることが予想される遺伝子を5つ選び、ゲノム編集を用いてそれらのuORFに変異を導入した。これまでに、そのうちの3つの遺伝子についてuORFが破壊された変異体が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
uORFが介するMgに応答した翻訳制御機構についての昨年度の研究において、uORF にコードされる新生ペプチドを含む翻訳複合体がMgを直接的に感知してリボソームを停滞させることを見出した。さらに、この翻訳制御機構が植物の細胞内Mg濃度の恒常性維持に重要な役割を担っていることを示した。これは植物の細胞内Mg濃度の恒常性維持に関与するMgセンサーの初めての発見である。この発見に加えて、その他のuORFによる翻訳制御機構の解析も順調に進んでいる。また、ゲノム編集を用いてイネとトマトの遺伝子のuORFを破壊することによって特定のタンパク質の発現量を増加させ、それにより有用な形質を持つ作物を作出する研究においても、ゲノム編集によるuORFへの変異導入が順調に進み、3つの遺伝子についてuORFが破壊された変異体を得ることができた。以上のことから、当初の計画以上に研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 細胞内環境感知機構の解析 uORFペプチドがMgに応答してリボソームを停滞させる機構をさらに解明するために、uORFペプチドの様々なアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換し、Mg応答への影響を調べる。また、uORFペプチドとリボソームの相互作用がMg濃度によってどのように変化するかを解析する。 核小体ストレス応答に関与するANAC082遺伝子では、核小体ストレスに応答した選択的スプライシングによってuORFが除去され、主要ORFの翻訳が促進される。ANAC082遺伝子の核小体ストレスに応答した選択的スプライシング機構を解明するために、関与する因子の遺伝学的同定を行う。 研究代表者はこれまでにシロイヌナズナのゲノムから、AUG以外のコドンを開始コドンとする進化的に保存されたuORFを同定した。それらの非AUG開始型uORF の下流につないだレポーター遺伝子を持つ形質転換植物を用いた昨年度の解析から、乾燥ストレスに応答して翻訳段階で発現が誘導される遺伝子を見出した。この翻訳制御には複数のuORFが関与する可能性が考えられるため、乾燥ストレスに応答した翻訳促進に関与するuORFの同定を行う。また、非AUG開始型uORFが介する翻訳制御機構に関与する因子の遺伝学的同定を行う。 2. ゲノム編集を用いたuORFの破壊による作物育種 昨年度、環境ストレス耐性などに関与するイネとトマトの5つの遺伝子のuORFを標的としてゲノム編集を行い、そのうちの3つの遺伝子についてuORFが破壊された変異体が得られた。今後は、それらの変異体において、uORFの破壊によって主要ORFにコードされるタンパク質の発現が期待通りに増加しているかを調べる。また、それらの変異体が期待通りに強い環境ストレス耐性を示すかを検討する。
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[Journal Article] Comprehensive genome-wide identification of angiosperm upstream ORFs with peptide sequences conserved in various taxonomic ranges using a novel pipeline, ESUCA2020
Author(s)
Takahashi H, Hayashi N, Hiragori Y, Sasaki S, Motomura T, Yamashita Y, Naito S, Takahashi A, Fuse K, Satou K, Endo T, Kojima S, and Onouchi H.
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Journal Title
BMC Genomics
Volume: 21
Pages: 260
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Presentation] 上流 ORF の新生ペプチドを含む翻訳複合体が細胞内のマグネシウム濃度を感知して翻訳を制御する2019
Author(s)
林憲哉, 佐々木駿, 平郡雄太, Zhihang Feng, 藤原徹, 渡部敏裕, 町田幸大, 今高寛晃,高橋広夫, 山下由依, 内藤哲, 尾之内均
Organizer
第61回植物生理学会年会
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