2019 Fiscal Year Annual Research Report
イネ耐性品種を用いた低リン環境適応型作物モデルの構築
Project/Area Number |
19H02937
|
Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
佐藤 豊 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, 上級研究員 (90510694)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹久 妃奈子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, 研究員 (20455356)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | イネ / リン / QTL / オミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
イネの低リン環境耐性系統にコシヒカリを交配した後代系統集団を可給態リン酸がほとんど存在しない長期連用圃場で栽培し、分げつ数や枯れ程度から各個体の低リン耐性を評価して「極強」、「強」、「弱」、「極弱」の4グループに分類した。グループ毎にバルクDNAを作成して次世代シーケンス解析に供試しQTL-Seq解析を実施したところ、いくつかのQTL候補領域が検出された。さらに候補領域を絞り込むために、耐性系統とコシヒカリの交配後代F2(20個体)にコシヒカリを戻し交配し解析集団を作成した。 長期連用圃場で栽培した低リン耐性系統とコシヒカリの葉と根をサンプリングし、mRNA-Seq解析を実施した。その結果、耐性系統ではコシヒカリと比較して、生育の早い段階の根において酸性フォスファターゼや膜脂質のリモデリングに関わる遺伝子の発現が高い傾向が見られ、耐性を示す一つの要因である可能性が考えられた。 2種類の土壌種の水田に栽培した複数品種の葉を分げつ形成期にサンプリングし、リンの栄養状態を可視化するための遺伝子発現指標 (バイオマーカー)の発現を解析したところ、リン酸吸収係数が高い土壌種では全ての品種でバイオマーカーの高い発現が確認され、リンの要求反応が起きていることが示唆された。一方で、収量については土壌種に依存した傾向は見られなかった。さらに、バイオマーカーの発現と収量との関係を調べるために、リン施肥量を変えたポット試験を実施したところ、一定の範囲内であれば植物体がリンの要求反応を起こしていたとしても収量を維持できる機能を持っている可能性が示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
耐性程度を簡易に検定するための条件探索や新たなバイオマーカー開発を計画していたが、現時点で低リン耐性品種の耐性を圃場以外で再現できておらず、やや進展が遅れている。しかし、mRNA-Seq解析によって低リン耐性形質の一つの要因と考えられる遺伝子発現の特徴が見えたことから、耐性機構解明や新規バイオマーカー開発に向けて今後の進展が期待できる。 長期連用圃場は非常に強い低リン環境であり生育調査や耐性程度の評価が難しい場面もあったが、今回選抜したサンプルを用いたQTL-Seq解析によって耐性形質を支配すると考えられるQTLの候補領域が検出された。また、リンの栄養状態を調べるバイオマーカーの発現と収量との関係からイネが一定の範囲内の低リン条件であれば収量を維持できることを示すことができた点についても十分な進展があったと考えらえる。これらの状況を考慮して、おおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
圃場でのストレス耐性の評価は、気温や降雨など他の環境に大きく影響を受ける。そこで昨年度評価したF2個体の耐性を確認するため、各個体から採取したF3系統を長期連用圃場で育成し耐性評価を実施する。さらに候補領域を絞り込むため、それらの分離集団等を用いてQTL-seq解析を行うとともに、選抜した耐性系統とコシヒカリを交配し解析集団を育成する。また昨年度に引き続き、対照区と連用圃場で育成した耐性系統とコシヒカリの地上部や根を経時的にサンプリングし、バイオマスやリン濃度の計測、mRNA-Seq解析等を実施して、耐性機構の解明や新規バイオマーカーの開発を試みる。mRNA-Seq解析で得られるトランスクリプトーム情報については既存の情報も活用してデータ解析を実施する。一方、長期連用圃場は面積が限られ土壌も貴重であることから、今後研究をさらに発展させるためには圃場での耐性形質を環境制御室内で再現できる条件を探索する必要がある。そこで、土の種類や施肥量等を変えたポットで耐性系統とコシヒカリの栽培試験等を実施し、耐性を担う形態特性や生理・分子機構等の推定を試みる。昨年度、低リン条件が一定の範囲内であればイネは収量を維持できる機能を持っている可能性を示したが、耐性程度の異なる品種間でその範囲が同じなのか異なるのか不明である。そのため、低リン耐性系統とコシヒカリの交配後代から耐性程度の異なる系統を選抜し固定化を進める予定である。
|