2020 Fiscal Year Annual Research Report
未利用遺伝資源を活用した線虫抵抗性機構の解明と革新的接ぎ木による線虫制御技術開発
Project/Area Number |
19H02962
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
植原 健人 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中日本農業研究センター, 産学連携コーディネーター (30355458)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
門田 康弘 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 専任研究員 (80548975)
上杉 謙太 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 植物防疫研究部門, 上級研究員 (00414798)
村田 岳 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 植物防疫研究部門, 研究員 (90760364)
松永 啓 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 野菜花き研究部門, グループ長 (90355339)
宮武 宏治 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 野菜花き研究部門, 主任研究員 (70442754)
新村 芳美 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 野菜花き研究部門, 研究員 (90807736)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ネコブセンチュウ / 線虫抵抗性 / エフェクター / 台木 / 接ぎ木 / ナス / 遺伝資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
ネコブセンチュウに対する抵抗性植物の免疫反応の解明を試みた。ナス科の線虫抵抗性台木Solanum torvum はサツマイモネコブセンチュウ(Mi)やアレナリアネコブセンチュウ沖縄型(Ma沖縄)をはじめとする様々な線虫種に抵抗性を示す。しかし、アレナリアネコブセンチュウ本州型 (Ma本州)に感受性である。そこで、Ma沖縄、及び、Ma本州を感染させることにより、S. torvumに抵抗性・感受性の反応を誘導する実験系を立ち上げ、、Ma沖縄、及び、Ma本州を接種後、感染部位である根端を集めて網羅的な遺伝子発現解析を行うことにより、抵抗性・感受性に関連する遺伝子群を探索した。 また、ハリナスビ(S. sisymbriifolium)の育成系統について、Ma沖縄、ジャワネコブセンチュウ(ジャワネコブ)、キタネコブセンチュウ(キタネコブ)の寄主適合性試験を実施した。試験植物には、ハリナスビ育成系統(以下、ハリR)に加え、対照区としてハリナスビのサツマイモネコブ感受性系統(以下、ハリS)、ナス(品種:千両二号)およびトマト(品種:プリッツ、桃太郎)を用いた。各ネコブセンチュウを接種し、線虫接種後、根系に形成された卵のう数により寄主適合性を評価した。 さらに、ネコブセンチュウに対する抵抗性が認められたハリナスビ系統を対象とし、青枯病抵抗性検定を実施した。幼苗検定では抵抗性の対照品種‘台太郎’と同等の抵抗性を示す系統が見出されが、同集団を用いた汚染ほ場での検定では、ほとんど全ての系統が枯死した。また、その他の重要な形質として、半枯病・半身萎凋病抵抗性の他、ナスの穂木用品種に接ぎ木した場合の収量性を含む実用形質についても、既存の台木用品種を上回る成績であったことから、総合的な判断として、ハリナスビが台木用として有望な素材であることを再度確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ma沖縄を接種するとS. torvumの感染部位周辺では茶色の物質の蓄積が見られたことから、感染部位周辺で劇的な免疫反応が誘導されていると考えられた。そこで、感染部位において誘導される遺伝子発現変動を調べた。Ma沖縄を接種した根端においては、接種1日後でセスキテルペン合成酵素をはじめとする二次代謝産物の合成に働く遺伝子群、さらに脂肪酸不飽和化酵素群の発現が劇的に誘導されていた。このことから、S. torvumの線虫に対する抵抗性応答として、線虫に直接作用する物質が合成されることが示唆された。接種2-3日後では、防御関連遺伝子群、及びリグニン合成酵素遺伝子群の発現が誘導された。一方、興味深いことにMa本州を接種した根端においては接種1日後では優位な遺伝子発現誘導が見られなかった。接種2-3日後ではチャルコン合成酵素、スペルミジン合成酵素、根こぶ形成に必要と考えられる細胞壁修飾関連酵素、線虫寄生部位での細胞間物質輸送に関わると考えられるトランスポーターなどの遺伝子群の発現が誘導された。さらに、線虫の感染した根におけるリグニンの蓄積を調べたところ、Ma沖縄が感染した根端において顕著な蓄積が見られたが、Ma本州が感染した根においては蓄積が見られなかった。 ハリナスビの線虫抵抗性について、ハリRはMa沖縄およびジャワネコブに対して抵抗性であることが示唆された。両線虫においてハリRでは卵のう形成がほとんど認められなかった。本ハリナスビ系統は、半枯病および半身萎凋病に対して、強度抵抗性を示すことが複数年の試験で確認された。一方で、青枯病に対しては、正確な抵抗性強度の判定には、引き続き検定を繰り返し検証する必要がある。また、ハリナスビを台木とし促成作型で栽培した場合、代表的なナス用台木品種、‘トナシム’を台木とした場合よりも草勢および収穫果数が上回る傾向にあった。
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Strategy for Future Research Activity |
網羅的遺伝子発現解析から見えてきたS. torvumの免疫反応について、実際に線虫の増殖を効果的に抑制している反応の解明を目指す。また、Ma本州とMa沖縄の感染力の違いを解明するため、それぞれの線虫が感染課程において発現する病原性関連因子を同定するとともに、病原性因子がどのように働くのか、その分子機構に迫る。 また、ナス用台木としての実用性を判断するため、接木苗を圃場で栽培し、線虫被害や収量について評価する。さらに、選抜したハリナスビ10系統の相互交配により得られたF1組み合わせのうち、幼苗検定で青枯病抵抗性が認められた2点を含む27点について、再度抵抗性検定を実施し、抵抗性強度を検証するとともに、抵抗性個体の相互交配により遺伝的固定を図る。また、選抜系統の台木用品種としての品種登録を見据え、半枯病および半身萎凋病抵抗性について再度確認するとともに、分離が危惧される茎色等の形質については青枯病抵抗性同様、遺伝的固定を図る。将来的には、ネコブセンチュウ・半身萎凋病・半枯病に強度抵抗性を示すナスの台木品種として公開を目指す。
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