2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19H02971
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
後藤 慎介 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70347483)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷部 政治 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (40802822)
志賀 向子 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (90254383)
渕側 太郎 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (90802934)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 昆虫 / 光周性 / 休眠 / 内分泌 |
Outline of Annual Research Achievements |
In situ hybridizationにより,脳中央部に,前胸腺刺激ホルモン(Prothoracicotropic hormone, PTTH)を発現する細胞(PTTH細胞)が存在することが明らかになった.また,前胸腺からの逆行性色素注入で染色される細胞においてPTTHの発現が見られることが,単一細胞PCRにより明らかになった.これにより,PTTH細胞は,前胸腺へと投射して前胸腺の活動を制御していることが考えられた.免疫組織化学により, PDFを発現する細胞とsNPFを発現する細胞が同定された.PDFを発現する細胞は少なく(~10),sNPFを発現する細胞は多く(~70)見られた.予想とは異なり,PDFとsNPFは異なる細胞で発現することが明らかになった.幼虫が囲蛹化するまでの期間の,血中エクジステロイドタイターが明らかになった.長日を受けた幼虫では血中エクジステロイドが早くに上昇することがわかった.長日を受容した幼虫は早くに囲蛹化することがわかっている.このことは,長日を受容した幼虫のPTTH細胞がPTTHを分泌しやすい状態になっている,あるいはPTTH細胞を制御する計数機構(カウンター)がPTTH細胞からPTTHを分泌しやすくさせている,ことが考えられる.光周性の地理系統差は光周時計の違いであることが明らかになっている.そこで,成虫の概日歩行活動リズムを指標として,各系統の概日時計の自由継続周期を調べた.しかし予想に反して,概日時計の自由継続周期には緯度によるクラインは見いだせなかった.光周性の性差は雌雄の発育速度の差に起因するという仮説をたて,これを検証した.羽化までにかかる日数はメスで短いことが明らかになったが,囲蛹化,蛹化にかかる日数には性差は見られなかった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究組織の4名(研究代表者1名,分担者3名)が協同して成果をあげている. 光周性は,4つの機構すなわち光受容器,光周測時機構,計数機構,内分泌系からなると考えられている.また,光周測時機構には概日時計が関与すると考えられている.本研究は光受容器よりもあとの機構に注目して研究を進めている.蛹で休眠するナミニクバエの光周性に関与する分子や細胞としては,概日時計,概日時計出力因子,PTTH細胞,PTTH,前胸腺,エクジステロイドが考えられる.光周性において,これらがどのようにつながっているのか,どのタイミングで何が変わるのかを明らかにするのが本研究の目的の一つである.これまでに,概日時計細胞と概日時計で発現する神経ペプチドの同定,概日時計出力因子の脳内分布,PTTH細胞の同定,蛹の発育を直接制御するホルモンエクジステロイドの血中タイターが明らかになっている.このように,想定される細胞・分子の関連が少しずつ明らかになっている.本研究のもう一つの目的は,系統の間での,そして性の間での光周性の違いを明らかにすることである.系統間では光周測時機構あるいは概日時計の違いが想定されている.これまでに,歩行活動リズムを制御する概日時計の違いは光周性には寄与しないことが明らかになっている.今後は光周性に関与する概日時計そのものの違いを見ていく必要がある.また,性の間での差は,計数機構あるいは内分泌系の差であると考えられている.遺伝子レベルで幼虫の性を判別できるシステムが確立できたので,異なる性の幼虫でのホルモン分泌を測定する準備が整った.以上のように,本研究課題はおおむね順調に進展している.
|
Strategy for Future Research Activity |
PTTH細胞の形態と接続に関する結果の信頼性を高めるべく,前胸腺からの逆行性色素注入,PTTHのin situ hybridization,および逆行性色素注入によって染色される細胞の単一細胞PCRを繰り返す.また,概日時計との接続を明らかにすべく,新たに作成するPERIOD(概日時計タンパク質)抗体を用いて免疫組織化学を行う.ナミニクバエ幼虫の概日時計細胞は複数あり,おおきく2つの細胞群に分けられている.その細胞群の中でも,PDFを発現するものと発現しないものがある.キイロショウジョウバエにおいては,sNPFはPDFと共発現し,概日時計の出力因子として働くことが明らかになっている.しかし,現時点ではナミニクバエのsNPFが概日時計細胞で発現するかどうかは明らかになっていない.よって,PERIOD抗体を用いた免疫組織化学により,sNPFが概日時計で発現するかを調べる.これにより,概日時計とsNPF, PDFの関係が明らかになる.また,新たに作製するPTTH抗体を用いて,概日時計とPTTH細胞の神経解剖学的関連を調べる.さらに,PTTH細胞で発現する受容体を,単一細胞PCRによって明らかにする.これにより,PTTH細胞が何を受けて活性を変化させるのかが推定できる.また,幼虫が囲蛹化し,蛹化し,休眠ステージに至るまでのsNPF, PDF, PTTH, エクジステロイド合成酵素の発現パターンを解析する.これにより,上記の因子それぞれがどのような挙動を示すことで休眠・非休眠が決定されているのかを推定することができる.光周性の地理系統差の生み出す機構を明らかにすべく,複雑な光周期を組み合わせたNanda-Hamnerプロトコルを用いて,光周性に関与する概日時計の周期を調べる.性差を生み出す機構を明らかにすべく,光周期を与える回数を変化させたときの休眠運命変化の性差,そして内分泌系の活性化プロセスにおける性差を調べる.これにより,光周性機構の解明を行うとともに,光周性の変異を生み出す機構の解明を行う.
|