2020 Fiscal Year Annual Research Report
針葉樹の炭素固定量予測モデルの精緻化に向けた光呼吸代謝の解明
Project/Area Number |
19H03006
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
宮澤 真一 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (10578438)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大宮 泰徳 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所 林木育種センター, 主任研究員 等 (70360469)
鈴木 雄二 岩手大学, 農学部, 准教授 (80374974)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光合成 / 針葉樹 / 光呼吸 / 代謝 / 広葉樹 / ルビスコ / 炭素安定同位体 |
Outline of Annual Research Achievements |
CO2固定酵素であるルビスコが酸素と反応すると、植物にとって有害な2-ホスホグルコール酸(2-PG)が合成される。光呼吸は15種類の酵素から構成される代謝経路で、有害な2-PGをカルビン回路の代謝物である3-ホスホグリセリン酸(3-PGA)に変換する役割を有し、その過程でCO2とアンモニア(NH3)を発生する性質がある。一方、針葉樹は広葉樹とは異なり、光呼吸代謝で発生したNH3の同化にかかわる酵素である葉緑体型グルタミン合成酵素を持たず、針葉樹は広葉樹に比べて葉のNH3同化効率が低いことがわかってきた(Miyazawa et al. 2018, Journal of Plant Research)。この結果は、針葉樹は広葉樹とは異なる光呼吸代謝を有することを示唆した。そこで、野外に生育する針葉樹13種と広葉樹14種を材料に、葉に含まれる光呼吸代謝物をガスクロマトグラフ型質量分析装置(GC-MS)などによって定量し、両者で比較することにした。その結果、3-PGAの前駆物質であるグリセリン酸の平均含量は針葉樹の方が顕著に低く、広葉樹の約10分の1であることが明らかになった。一方、グリコール酸およびグリオキシル酸においては、平均含量は針葉樹の方が高く、広葉樹の約2倍であった。 次に針葉樹のグリセリン酸含量が低い原因を明らかにするため、ポプラとスギの切り枝を用い、グリセリン酸の前駆物質であるセリンを枝断面から蒸散流で吸わせる実験を行った。セリンは炭素安定同位体(13C)で標識されており、GC-MSによって、セリンから合成される物質を検出することが可能である。その結果、ポプラではグリセリン酸が標識されていたのに対し、スギではグリセリン酸よりもグリコール酸が標識されていた。これらの結果から、針葉樹の光呼吸代謝はセリンをグリコール酸に変換する独自の経路を有することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、酸素安定同位体ガス(18O2)を葉に吸収させ、代謝物を標識する予定であった。しかし、針葉樹と広葉樹の葉に含まれる光呼吸代謝を解析した結果、炭素安定同位体(13C)標識されたセリンを葉に与える実験の方が適切に研究を進めることができると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)スギやポプラの葉から光呼吸代謝にかかわる細胞内小器官(ペルオキシソーム)をショ糖密度委勾配遠心法によって単離し、酵素活性を調べる。また、針葉樹の光呼吸にかかわる代謝物の動態を明らかにするため、針葉樹の葉に含まれる代謝物を酸素安定同位体や炭素安定同位体によってラベルし、質量分析装置によって解析する。さらに、昨年度の成果を論文にまとめ、海外学術誌に投稿する。
(2)グルタミン合成酵素の1種(GS1a)遺伝子の発現抑制ベクターを導入したスギ培養細胞の中から、当該遺伝子が抑制された細胞を選抜し、個体にまで再生する。
(3)針葉樹のルビスコを部分精製し、CO2や酸素に対する親和性や最大固定速度を測定する。
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