2019 Fiscal Year Annual Research Report
Physical implication of formation of S2L layer in cell wall of gymnosperm compression wood
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19H03016
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山本 浩之 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50210555)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 圧縮あて材 / 未成熟材 / ミクロフィブリル傾角 / セルロースミクロフィブリル / 成長応力 / 湿熱回復 / 収縮・膨潤 / リグニン |
Outline of Annual Research Achievements |
針葉樹には傾斜して成育する樹幹の下側に、しばしば圧縮あて材という特異な木部組織が形成される。圧縮あて材では、細胞壁S2層のミクロフィブリル傾角(MFA)が正常材に比べて大きく、30~60度にもなることがある。とりわけ大きなMFAが、繊維方向において大きな伸びの湿熱回復率や縮みの乾燥収縮率など、圧縮あて材に特徴的な寸法変化挙動の原因とされている(Tanaka et al. 2014, Barber&Meylan 1964)。 しかし、大きなMFAを示す場合であっても、 未成熟材ではそれほど大きな寸法変化挙動を示さない場合が多い。また、大きなMFAを示す圧縮あて材でも、寸法変化挙動にはバラツキがあることに我々は気付いている。このことから圧縮あて材に見られる特異的に大きな乾燥収縮率や湿熱回復率は、MFAに支配されるというよりも別の要因によって制御されている可能性が示唆される。 本研究では、支配要因として圧縮あて材に固有な細胞壁構造である“S2L層”に着目した。S2L層は、セルロースミクロフィブリルがほぼ横巻き構造をとっている等の特徴をもつ。 当該年度の研究では、スギおよびヒノキの圧縮あて材や正常材のほか、未成熟材について、繊維方向の乾燥収率、湿熱回復率とMFAとの関係を実測した。併せて細胞の壁層構造を単純化した繊維細胞モデル(CML+S1+S2モデル)を用いて、弾性解析を行うことで、寸法変化挙動に及ぼすS2L層(当該年度の研究では厚いS1層で代用)の役割の検討を開始した。 実験的には、いずれの樹種についても、繊維方向の湿熱回復率および乾燥収縮率は、圧縮あて材部において大きな値を示し、一方、正常材はほとんど寸法変化しなかった。未成熟材ではやや大きな値を示すものの、あて材に比べれば有意に小さかった。このことは従来の理論(MFAのみが寸法変化を制御するという)では説明がつかない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第1年次(2019年度)から、国内産針葉樹だけでなく、熱帯産(インドネシア産)針葉樹(アガチス)の成長応力の現地測定とサンプリングを行った。年輪の形成(早晩材の不均一構造の形成)の影響を排除したデータを欲したからである。しかしながら、現地でサンプリングを許された試験体には、理想的に発達した圧縮あて材が含まれていなかった(発達した圧縮あて材が見付からなかった)。第二年次(令和2年度)に期待したいが、コロナウィルス感染症の影響をも含めて、インドネシアでのサンプリング活動に困難を憶え覚えている。急遽、熱帯地域でのサンプリング予定地をフィリピンに変更し、第2次年度に集中的に、熱帯材のサンプリングを行うつもりでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、実験データの充実をはかること、すなわち愛知県森林・林業技術センターにてスギ在来種傾斜成熟個体および鉛直未成熟個体を、さらに岐阜県森林研究所所有研究林(高山市)にてスギ・ボカ品種傾斜成熟個体および鉛直未成熟個体をサンプリング対象とする。さらに年輪(早晩材構造)を持たない材料として、フィリピン・環境自然資源省・ミンダナオ森林・湿地管理センター所管の実験林(ビスリグ市)にて、アラウカリヤ(可能であればイゲム)をも測定・採取する(今後はインドネシアでの測定・サンプリングは行わない予定)。これらについて、 1.表面成長応力の測定と木部試料採取:表面成長応力を現地測定する。成長応力測定とサンプリングを行う。木部試料をサンプリングの後、名古屋大学に搬送する。 2.木部試料の力学的性質の測定と組織観察:試験片を作成し、乾燥収縮ひずみ、湿熱回復ひずみ、ヤング率、ミクロフィブリル傾角(MFA)を測定する。今年度以降は、光学顕微鏡観察にあわせUV顕微鏡(ハイパスペクトルセンサ・イメージ分光カメラおよび分光光度計用コントローラを購入)により、S2L層の形成の定量的観察に力を注ぐ。 3.力学モデルによるS2L層の役割の理論的解明:昨年度着手し始めた、多層複合円筒状細胞モデル(力学数理モデル)の実質的完成を目指す方向に力を入れる。細かいシミュレーション(実測値との定量的擦り合わせ)は第3年次と第4年次となる。
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