2021 Fiscal Year Annual Research Report
水産資源生物の繁殖・被食・加入過程への環境DNAによるアプローチ
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19H03031
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
益田 玲爾 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (60324662)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
源 利文 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (50450656)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 環境DNA / 沿岸加入 / 水産資源生物 / ニホンウナギ / クラゲ / クロダイ |
Outline of Annual Research Achievements |
環境DNAとは,生物が環境中に放出するDNAの総称である.種特異的なプライマー・プローブによりこれらを検出し定量PCRで増幅することで,対象生物の在不在や生物量を推定することが可能となってきた.また,ユニバーサルプライマーを用いれば,生息する魚類群集についての情報を得ることが可能である.本研究では,環境DNAの検出と対象生物の現存量や活動性,生活史イベント等との対応を詳細に調べ,本技術の精緻化を目指している. 気仙沼舞根湾で採取した海底堆積物から,魚類とクラゲ類の環境DNAの検出を試みた.カタクチイワシの環境DNAは各層から一貫して検出される一方で,ミズクラゲとアカクラゲの環境DNAは,津波の証拠となる石油由来物質の層の直上から最も多量に検出された.これは,津波直後にクラゲ類が大量発生したとの潜水目視調査の結果とよく一致していた. 環境DNA放出と活動性の対応について,ニホンウナギを用いた飼育実験により検討した.活動性の高い時間帯には環境DNAの検出量は多い傾向が見られたものの,非活動時にも一定の検出が認められた.種特異的プライマー・プローブの塩基配列と異なる塩基配列を持つ個体については,検出されるDNA量が極めて低い値となった.また,配列が一定していても検出量が常時低い個体もいた.本実験の結果から,環境DNA放出(あるいは検出)量には個体差があるため,生息個体数の極めて少ない環境では,生息個体をとりこぼすリスクもあることが明らかとなった. クロダイの環境DNAを丹後海のフィールドで用いた実験では,産卵期である6月にのみ環境DNAが20km沖合の地点でも検出され,他の時季には基本的に離岸2km以内でのみ検出された.このことから,受精卵や仔魚が沖合に流されることはあるものの,本種は基本的には岸から2km以内に生息していることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞核およびミトコンドリアをターゲットとした環境DNAの種特異的プライマー・プローブを,マナマコ,カタクチイワシ,クロダイおよびキジハタについて開発できた.これらが水槽の飼育水や天然の生息環境水から検出可能であることも確認している. 産卵に伴う環境DNA検出量の変化について,キジハタでは水槽で,クロダイでは天然海域で検討できた.キジハタの水槽実験では,受精卵の得られる直前に,核由来の環境DNAの割合がミトコンドリア由来の環境DNAに比して増加した.このことは,産卵の直前から放精がなされていることを示唆しており,当初の予想を支持する結果となった.一方,クロダイにおいては,天然海域での採卵と環境DNA検出量との一環した対応関係は認められなかった. 海底堆積物から環境DNAを定量的に検出する技術を用いて,津波前後の生物群集の変化の推定を試みた.ミズクラゲとアカクラゲの環境DNA量はいずれも,津波以前よりも津波直後に多くなり,以後減少していることが示された.これは,津波によりもたらされた貧酸素・富栄養の海洋環境がクラゲの大発生を促したことを示唆している. ニホンウナギを用いた飼育実験では,個体のばらつきの問題をクローズアップできた.従来行われてきた水槽実験や野外調査における環境DNA分析の結果のばらつきについては,環境DNA放出量(あるいは検出量)の個体差により,ある程度説明がつくと考えられ,大きな進展と言える. クロダイの種特異的プライマーを用いた調査では,沿岸・沖合での分布に加え,河川での進入状況の季節変化を,日本海側と太平洋側とで調査し,一貫した結果を得ることができた.このうち丹後海での成果は論文として公表できた.
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Strategy for Future Research Activity |
マナマコの環境DNA放出に関する実験を行う.まず,異なるサイズのマナマコが放出する環境DNAを個体レベルで分析する.次に,マナマコを被食者とし,イシガニおよびカワハギを捕食者とした被食実験を行い,被食時の環境DNA放出の特異的上昇が検出可能であるかを確かめる.さらに,マナマコ種苗放流直後に沿岸海域で連続的な採水を行い,環境DNAの変動を調べ,同時に放流マナマコの分布状況を潜水により調査する.これにより,放流後のマナマコの動態を環境DNAで把握することが可能であるかを検討する. マアジを材料として,採卵のタイミングにあわせて,水槽内および野外での継続的な採水を行う.試料は核およびミトコンドリアDNAを標的とした環境DNA分析に供する.これにより,天然海域における産卵事象が環境DNA技術により検出可能であるかを検討する. 今年度は新たにアイゴをターゲットとした研究を予定している.アイゴの種特異的なプライマーをまず開発する.続いて,若狭湾に加入するアイゴ幼魚が環境DNAで検出可能であるかを検討する.例年,舞鶴湾外には8月下旬,舞鶴湾内には9月上旬にアイゴの当歳魚が加入するため,その前後の期間の採水試料と潜水目視調査の結果を照合する.舞鶴湾内では加入直後から1ヶ月程度でアイゴ当歳魚の個体数は急激に減少する.そこで,アイゴの捕食者の探査を行う.捕食者となりうる生物種として,同所的に生息するカサゴ,イシガニおよびアオリイカを採集し,これらの胃内容物からDNAを抽出する.得られた産物は,アイゴの種特異的プライマーおよび魚類のユニバーサルプライマーを適用した環境DNA分析に供する.一連の実験により,藻類食者であるアイゴの潜在的な捕食者が明らかになれば,磯焼け防止策として,特定の捕食者の積極的な保全を提言することができる可能性がある.
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Remarks |
昨年度に2件のプレスリリースを行なった.
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Research Products
(14 results)
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[Journal Article] Determining an effective sampling method for eDNA metabarcoding: a case study for fish biodiversity monitoring in a small, natural river.2021
Author(s)
Sakata MK, Watanabe T, Maki N, Ikeda K, Kosuge T, Okada H, Yamanaka H, Sado T, Miya M, Minamoto T
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Journal Title
Limnology
Volume: 22
Pages: 221-235
DOI
Peer Reviewed
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