2020 Fiscal Year Annual Research Report
季節海氷域における海洋酸性化と石灰質生物の応答メカニズムの解明
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19H03037
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
木元 克典 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 主任研究員 (40359162)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 篤 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (50344495)
下島 公紀 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (70371490)
清水 啓介 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (00757776)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ISFET pHセンサ / 海洋酸性化 / 石灰化生物 / 有殻翼足類 / 生態的可塑性 / 生物影響評価 / マイクロフォーカスX線CT |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の成果としては、本研究の要となるISFET pH/pCO2センサの機器製作班は、1)ISFET半導体の性能向上、実海域でのpH/pCO2観測をそれぞれ実施した。また生物影響評価班は、2)有殻翼足類の遺伝的多様性研究、そしてオホーツク海の有殻翼足類の生態研究を実施した。以下、順に説明する。 1)ISFET半導体は昨年度に引き続き、九州工業大学にて製作を行った。合計2回の製作を実施し、そのうち1回については半導体をモールド加工を行い海水中での導通試験を実施し、pHセンサとしての動作および性能を確認した。オホーツク海で同時進行している、センサの実海域試験では、緊急事態宣言等の実施により現地への出張が制限され対応が遅れているが、来年度初旬に海水中からセンサを揚収しデータを回収する予定である。 2)生物影響評価班は、北極およびオホーツク海に棲息する有殻翼足類の生態と海洋酸性化の影響に関する研究、および遺伝子多様性についての研究を実施した。前者は、カナダ海盆より採取された有殻翼足類について、マイクロX線CT法による殻密度計測を実施し、海水中のΩ(炭酸塩飽和度)との相関を明らかにした。また後者は北太平洋とオホーツク海から得られたL. helicinaのミトコンドリアDNA(mtDNA)のCOI領域と、マイクロX線CTによる形態情報を比較したところ、両者は遺伝的には共通のものであるが形態的特徴は異なることを明らかにした。これはオホーツク海と北太平洋の海水の交流があることと一致し、形態の差異はそれぞれの環境に関係した生態的可塑性によるものであることが明らかとなった。この成果はMarine Biodiversity誌に2021年1月14日付で掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、新型コロナ感染症の緊急事態宣言に伴う自粛および出張制限などが実施されたが、現場観測や実験を主とする本研究テーマにおいて、半導体製作および現場観測を実施する研究機関とうまく連携を図ることによって、予定された研究内容の進捗についてはほとんど遅延することなく研究を遂行できたことは特筆に値する。とくに、ISFETについては軽微な技術的トラブルが残るものの、来年度の1号機製作にむけて順調に進んでおり、かつ現場海域での観測実験を同時に実行することで、長期的運用に関する基礎的な情報を着実に得ることができている。 また、生物影響評価については、観測された海水中のΩ(炭酸塩飽和度)とそこに棲息していた有殻翼足類の殻密度についての相関について、新たな重要な成果を得ることができた。北極海域で得られた海水と、石灰質プランクトンの情報は、夏場におけるスナップショット的な結果ではあるものの、石灰質生物はΩの低下、すなわち未飽和海水に晒されると直ちに殻の溶解が進行するのでなく、未飽和海水に対し化学的溶解から防御する耐性をもつことが明らかとなったことは、これまでに現場海域からは報告のない新たな知見である。さらに、当初の研究計画にはなかった、殻の化学的特性をレーザーICP-MSを用いて微量元素を計測することで、新たな水温プロキシーの開発ができたことは、大きな成果であった。これにより、ほとんど分かっていない有殻翼足類の水温履歴を明らかにすることにつながることは確実であり、現在論文化に向けた準備を進めている。 以上のように、海洋酸性化に対する石灰化生物の生態学的研究が先行して多くの成果を上げつつある。これにより、当初の計画以上に進展しているという評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は以下の点について研究を実施する。 1)ISFET半導体製作を引き続き遂行する。これまでに得られたいくつかの不具合を修正する対策を施すとともに、確実にpHセンサとして動作する製品の製作に向けて尽力する。 2)ISFET半導体を使ったpHセンサを作成し、実海域で目的の性能が得られているかどうかを確かめる。 3)石灰質生物についての海洋酸性化影響評価を引き続き行う。とくに今年度に得られたいくつかの重要な成果を論文化し査読付き英文誌に投稿するとともに、学会などで広く研究成果の広報を行う。
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