2021 Fiscal Year Annual Research Report
褐藻類の有用多糖類およびカロテノイド類代謝関連酵素の探索と機能実証
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19H03039
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 晶 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (70396307)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 褐藻類 / 多糖類 / アルギン酸 / フコイダン / カロテノイド / キサントフィル |
Outline of Annual Research Achievements |
コンブやワカメなどの褐藻類は、食糧としてだけでなく有用成分の供給源としても重要である。特に多糖類やカロテノイド類には他の藻類や陸上植物にみられないものが多く、それらのいくつかはヒトの暮らしの改善にも関わっている。一方、褐藻自身がそれらをどのようにして合成し、利用しているのかについては、不明な点が多い。本研究では、褐藻の有用化合物の代謝機構を解明するために、それに関わる酵素の同定と有用酵素の大量生産法の確立を目的としている。 前年度までに、褐藻由来の酵素の基質となるアルギン酸分解物を細菌の酵素を用いて準備を進めたが、その過程で未知の化合物が検出された。そのため、これを生じる酵素の同定を進め、アルギン酸酸化代謝機構の全容を解明した。この成果は定説とは異なり、アルギン酸分解・代謝時に細胞内で還元力が蓄積されることを初めて実証したものであり、新技術開発への貢献が期待される。 さらに、アルギン酸のマンヌロン酸とグルロン酸の配列を制御する酵素のマンヌロン酸C5-エピメラーゼについても組換え酵素の発現と機能解析を進めた。13種類のアイソザイムの発現系を構築したが、最も組換え酵素の収量が高かったものについて、詳細に酵素性状を解析した。注目すべき点としては、本酵素が比較的高い熱安定性をもつことがあげられ、40℃で1時間加熱後も95%以上の活性が残存していた。 フコイダン分解酵素については、これまでに知見は少ないもののいくつかの細菌から同酵素が発見されている。本研究では、それらと配列相同性をもつ2つの褐藻のタンパク質の発現に成功したが、フコイダン分解活性は検出できなかった。そのため、他生物のフコイダン分解酵素の一次構造情報を得るために、新規細菌のスクリーニングを行い、1種類のフコイダン分解細菌を単離した。そのゲノム解析を行った結果、少なくとも3種類の候補タンパク質が存在することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要目的酵素のマンヌロン酸C5-エピメラーゼについては、13種類のcDNAのクローニングに成功していたものの、酵素活性を測定するために十分な量を分泌発現することが困難であった。しかしながら、それらのうち4種類のものについて、キチナーゼ遺伝子を欠損した組換えバキュロウィルスを作成した結果、3種類のものでは分泌発現量が改善された。最大発現量を示したものについては、精製酵素を用いて性状解析を進め、その酵素特性を明らかにすることができた。本法が、他のマンヌロン酸C5-エピメラーゼに対して有効であるのかについては、今後それぞれ組換えバキュロウィルスを作成し発現確認を進める必要があるが、その有用性は高いと考えられる。 前年度までに実験を進める過程で未知のアルギン酸分解物を発見したことから、当初予定していなかった実験にも取り組んだ。この成果は、アルギン酸資化生物による新しいアルギン酸酸化代謝機構を実証する論文として発表した。 また、褐藻の機能不明なタンパク質がアルギン酸を基質とする酵素であることを見出し、その触媒反応が従来のアルギン酸分解および代謝酵素のいずれとも異なる結果が得られた。本酵素の反応メカニズムを調べることで、褐藻特有のアルギン酸代謝機構が解明できるだけでなく、これまでに想定されていないアルギン酸利用法の提唱につながると考えている。 一方、褐藻のフコイダン分解酵素とゼアキサンチン変換酵素については、いくつかの候補タンパク質について検討を進めたが目的の活性をもつ酵素の同定には至っていない。前者については他種生物の当該酵素の配列情報が極めて限定的であるため、これを克服するために褐藻以外の生物からも同酵素の同定を試み、新しい一次構造情報を得ることができた。後者については、昆虫細胞内で6種類の外来酵素を同時発現する方法の改善が必要と考えられたため、今後取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
マンヌロン酸C5-エピメラーゼについては、組換えバキュロウィルスの作成法を変更することで発現量に改善が見られたので、他の同酵素についても同様に検討を進める。また、既に大量発現が確認されており、生化学的実験に必要な酵素量が精製可能な2種類のものについては、次年度中の機能解析の完了を目指す。 また、組換えタンパク質の発現に成功した褐藻由来の機能未知の酵素が、アルギン酸を基質とすることが分かった。この触媒反応は従来、知られていないものであったことから、今後は本酵素の大量発現系の構築を進めるとともに、精製酵素を用いた機能解析に取り組む。 フコイダン分解酵素については、新たに単離したフコイダン分解細菌に新規のアミノ酸配列をもつフコイダン分解酵素候補タンパク質が見出された。そのため、これらのタンパク質の活性について組換えタンパク質を用いて調べる。さらに、本菌のゲノムデータベースを構築し、新たに取得したフコイダン分解酵素の一次構造情報を褐藻のトランスクリプトームデータベースにフィードバックすることにより、候補タンパク質をコードする遺伝子の探索とクローニングを進める。 カロテノイド生合成関連酵素については、ゼアキサンチンの変換を担う酵素の探索を継続して取り組む。アミノ酸配列からゼアキサンチンを基質とすると予測された3種類の候補タンパク質についてゼアキサンチン合成細胞で発現を試みたが、新たなカロテノイド類の蓄積は確認できていない。この実験では、少なくとも6個の外来タンパク質を一つの細胞内で同時に発現しているが、導入した各目的タンパク質の発現量が著しく低下することが電気泳動により確認された。この問題を解決するために、個々の遺伝子をタンデムに連結した構造のDNAを作出し、これを用いて酵素性状の再評価を行う予定である。
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Remarks |
「アルギン酸に酸化的代謝経路 北大が発見」日刊工業新聞(2021年11月9日21面掲載)
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