2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19H03040
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
酒井 隆一 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (20265721)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 良和 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (20374225)
及川 雅人 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 教授 (70273571)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 海洋天然物 / グアニジン / 膜透過 / 分子送達 / トロンボポエチン / ペプチド毒 / Cell Penetrating Peptide |
Outline of Annual Research Achievements |
海綿より得られたアーキュレイン―A (Acu―A ) の細胞バリア攻略能を評価した。HeLa細胞にAcu-Aと蛍光ラベル化したデキストランを加えると、細胞内、特に核内の顆粒に強い蛍光が観察された。この結果はAcu-Aがナノ粒子を細胞内そして核まで送達できることを示した。そこで次にCell penetrating peptide(CPP) として市販されているHIV-Tat等を用いて同じ実験を行ったところ、細胞内に弱いながらも蛍光が観察されたが、核への送達は確認できなかった。これらのペプチドで細胞を処理し、細胞外液と細胞質の質量分析を行ったところ、両者とも細胞質に取り込まれていることが確認できたが、Acu-Aのみは細胞外液に残余していなかったことから、CPP以上に細胞に取り込まれ易いことが示唆されAcu-Aが天然のCPPであることを示した。今回、pAcu-Bの全合成に成功したので、そのNMRスペクトルを天然物と比較したところ一致しなかった。そこで、天然物の構造を再検討しモデル化合物を合成したところ、候補構造が提出された。また、44残基ペプチドを固相合成で作成しモデルN末端残基と結合することで合成アーキュレインモデル化合物を作成した。さらに天然より類縁体を得た。これらの生理活性から、ペプチドのみでは活性を示さず、ポリアミンが必須であることが分かった。またペプチド鎖の短い天然物は極弱い活性を示した。パラオの海洋生物2種の抽出物より細胞膜を透過し小胞体に局在するタンパク質が得られた。また、ソリテシジン(SOR)の発現実験では発現たんぱく質に毒性は確認できなかった。現在、SORのアミノ酸変異体を作成しその細胞到達能を調べている。低分子化合物で細胞攻略能を示すと考えられるアルカロイドの単離・精製を行った。またトロンボポエチン様のタンパク質ThCと類縁化合物の評価・探索を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究でAcu-Aの細胞送達能を確認し、天然物として初めてCPPといえる活性を示すことを立証できた。また天然物を含む誘導体を用いてペプチドのみ、LCPAのみでは活性を示さないこと、両者を結合させることで活性が発現する可能性を示すことができ、アーキュレイン類の構造・活性相関に新しい知見を加えることができた。また、合成pAcuBの結果から従来の提出構造を修正する必要が生じた。これは予想外ではあるが正確な構造提出に向けた成果といえる。さらに固相合成によるペプチド合成が成功したことで、アーキュレインのジスルフィド結合パターンの決定など未解明な構造研究への足掛かりができた。今回、パラオ産生物由来の2種のタンパク質に小胞体と思われる細胞内小器官に局在する活性がみられたことは非常に興味深いと考えている。これらのタンパク質の構造と活性の研究は次年度の重要課題である。SORの発現体については全タンパク発現体の活性を再現できず、難航している。SORに糖鎖が結合している可能性を検討するとともに、ジスルフィド結合のパーターンを調べ、より詳細な構造情報を得る必要がある。今回、細胞膜透過能が期待できる小分子化合物を数種単離・同定したことで、送達子デザインの基盤を作ることができた。このように、海洋生物の水溶性生理活性物質に細胞のバリア攻略物質が含まれているという予測は、立証されており、本研究はおおむね順調に進行していると評価した。また、水溶性生理活性物質を探索する過程でトロンボポエチン受容体の強力な作動薬となる物質を見出した。この成果は本課題とは若干異なっているが、非常に興味深い課題であり、サイトカイン受容体の新規な活性化機構を示す重要な発見であるので、今後も推進してゆく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
アーキュレインのペプチド部のジスルフィド結合の決定を推進する。そのため天然Acu-Aを大量に生成するとともに、合成ペプチドの構造をNMRにより解析し比較することで情報を得ようと考えている。また、Acu類の類縁体をさらに合成及び天然より取得し、毒性とCPP活性について詳細を検討、毒性の少ないCPPのデザインを試みる。SORに関しては大腸菌を用いてトランケート体やGFP複合体等の変異体を作成し、その核到達能を調べると同時に、天然物の大量精製を行いジスルフィド結合や糖鎖などの構造情報を得る。細胞侵入能を持つたんぱく質については、アミノ酸配列の決定と立体構造の決定を開始する。また、細胞侵入の機構や局在性についてもより多くの情報を得る。低分子化合物に関してはその細胞内侵入能や物質送達能を調べるため蛍光ラベル体を作成し実験を行う。また新規の細胞攻略物質の探索も推進する。細胞膜攻略能の高い低分子化合物の官能基を導入した送達体を合成し、そのドラッグデリバリーシステムとしての評価を行う。トロンボポエチン様タンパク質については受容体活性化の機構の解明、発現たんぱく質の作成と構造活性相関を進めるとともに、既存薬との相乗効果、ヒトモデルでの作用を調べ医薬としての応用を視野に据えた研究を展開する。また同様の活性を持つ物質の探索も進める。
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