2019 Fiscal Year Annual Research Report
異常輸送理論と群知能を融合した「地下ダム管理モデル」の構築と実装
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19H03074
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
井上 一哉 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (00362765)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 麻里子 神戸大学, 農学研究科, 特命助教 (50756658)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 地下ダム / 群知能 / 異常輸送現象 / 機械学習 / 塩水浸入 / 管理技術 / 模型実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,地下ダム湖において肥料成分が移動,濃縮,流出する力学現象に関する科学的洞察と人工知能の一分野である群知能・機械学習により,新たな「地下ダム管理モデル」の構築と実装を目的としている.本年度は,3つの研究テーマについて研究を進めた. 1つ目は,地下ダム湖の地下水盆となる琉球石灰岩の間隙率を推定できるAIの開発である.地下ダムの持続可能な運用,効率的管理に向けて,喜界島地下ダムサイトの琉球石灰岩のコアサンプルを用いた,熱画像,ならびに,機械学習による間隙質推定手法を開発した.熱画像では,Newton則の冷却係数による部分的な推定,機械学習では,データ数増加手法による精度向上を実現できた. 2つ目は,肥料成分の地下水中移動を想定して,透水性の高い領域を規則的に配置した二次元模型実験により,物質輸送,特に非線形となる異常輸送現象の解明に取り組んだ.高透水の地盤構造を反映した溶質輸送実験により,知見の少ない非フィック輸送とべき数の関係を定量化した結果,べき数1.5~.2.3の範囲の非フィック輸送を確認できた.また,高透水試料の占有率を大きくすると,地盤全体の均質性が増すことから溶質輸送の非線形性は減少した.水みち内の流速増加は低透水部への溶質の移動量を増加させるため,非フィック輸送が制限されてべき数の値が減少すると示唆された.3つ目は,塩水阻止型地下ダムの重要現象となる塩水侵入について実験的・数値解析的に考究した.地下ダムの長期供用に向けた,機能診断手法の立案,止水壁の健全性評価の確立を目指して,貯留域に残留する塩水塊を管理する目的で計測される電気伝導度分布に着目し,止水壁の健全性評価指標としての有用性を検討した. その結果,止水壁の状態に応じた残留塩水塊の変化傾向を捉え,止水壁上流で計測される鉛直方向の電気伝導度分布は止水壁の健全性と損傷部を示す指標となる可能性を示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前述のように,3つのテーマを軸として,研究を遂行してきた.地下ダムの地下水盆を形成する琉球石灰岩の間隙率推定については,実装に向けたベースと成り得る計測方法やアルゴリズムを構築することができ,機能診断のための簡易的な間隙率計測手法として有効である可能性を示唆した.また,実験室スケールに対して,透水係数のネットワークに応じた異常輸送の定量化を達成でき,ランダムウォーク粒子追跡法により,溶質輸送実験を再現できるシミュレータを作り上げた.加えて,塩水浸入現象に関する実験的・数値解析的アプローチについては,当初の計画に上乗せするテーマとして取り組むことができた.地下ダム止水壁の施工状態を反映した模型実験や数値解析を通じて,止水壁の下流側における遮水性弱部の位置に応じた塩水分布の変化を確認するとともに,止水壁周辺の電気伝導度観測が止水壁の健全性を示す有力な情報になる点を示唆できた.さらには,これら3つのテーマに加えて,地下ダムサイトでの原位置トレーサ実験に向けたフィールドステーションを喜界島の島内に設置することができた.以上のことより,総合的に判断すると,当初の計画よりも進行していることより,当初の計画以上に進展していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進の方策としては,初年度の成果をベースとして,下記の3点を軸に研究を進めていく予定である.1点目として,異常輸送メカニズムの解明に向けて,琉球石灰岩の複雑なポーラスネットワークに起因する溶質の不規則な輸送挙動に関して非Fick則に扱うことのできる室内模型実験の実績を積み上げる.琉球石灰岩の間隙構造を考慮した室内実験と数値解析手法の高度化を図るとともに,琉球石灰岩のボーリングコアをさらに入手することにより,機械学習と群知能を連携した間隙率推定手法について実装を視野に入れた開発を目指す 2点目として溶質輸送シミュレータの開発と原位置実験を達成すべく,前述のテーマと連動した異常輸送実験を再現できる溶質輸送シミュレータを開発する.また,地下ダムサイトにて原位置トレーサ試験を実施し,原位置での透水係数分布のモデリング,原位置トレーサ試験による濃度変動を十分に再現できる溶質輸送シミュレータの開発と検証を行う.原位置試験にて濃度変動を実験的に観測するとともに,地下ダム貯水湖の溶質挙動を再現し得る溶質輸送シミュレータを組み上げて,地下ダム管理モデルのベースを構築する. 3点目は,群知能を応用した最適・柔軟な管理モデルとして,施肥量履歴や観測データ,地下水取水量を考慮しつつ,最適化性能に優れた群知能を活用して,農業活動に必要な取水と地下ダム貯水湖の水質保全のバランスを維持できる最適な管理計画を提示する.地下水脈を堰き止めて貯水する地下ダムを維持管理するには,水量と水質の両者の健全性を保つ必要がある点と長期供用中に農業形態に変化が生じる点を想定して,柔軟な取水シナリオを提示できる地下ダム管理モデルを新たに提示する. いずれの研究テーマについても,前年度の成果を基盤に据えて,さらに発展した成果を上げることが期待でき,合理的・効率的なダム管理やダム設計に資する成果を創出する.
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