2019 Fiscal Year Annual Research Report
トマトの難防除土壌伝染性病害である青枯病と半身萎凋病に対する新しい防除法の確立
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19H03091
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
松添 直隆 熊本県立大学, 環境共生学部, 教授 (50239018)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中原 浩貴 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 特別研究員(PD) (30828364)
近藤 謙介 鳥取大学, 農学部, 講師 (70403376)
森 太郎 滋賀大学, 教育学部, 准教授 (90725053)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 青枯病 / 水溶性鉄 / 低濃度エタノール / 生理阻害 / 病害防御応答遺伝子 / 生育量 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は,水溶性鉄資材(以下、鉄資材)を用いて,①鉄資材等が青枯病菌のPC化に与える影響、②トマトへの鉄資材施用が青枯病抑制効果に与える影響、③栽培培地への鉄資材施用がトマトの生育に与える影響、④トマトへのPC株接種が病害防除に与える効果の実験を行った。 ①鉄資材等が青枯病菌のPC化に与える影響:In vitroの土壌培地において,高濃度の鉄資材混和による青枯病菌の増殖と変異への影響を調査し,培養初期での菌の増殖阻害と培養後期でのPC化を確認できた。In vitroの水培地において,滅菌蒸留水(pH7)と最小培地(pH5~8)で実験を行い,高pH・最小培地処理区での鉄資材混和によるPC化を確認できた。土壌培地において,低濃度エタノール溶液を添加することでPC化を誘導する現象とその条件を確立できた。以上、本事業の根幹である鉄資材を利用した青枯病のPC化の基礎が確立できた。 ②トマトへの鉄資材施用が青枯病抑制効果に与える影響:青枯病汚染土壌培地において,トマト根への鉄資材浸漬処理(48時間浸漬後汚染培地植える)によって青枯病発病が若干抑制されることを確認した。さらに詳細な実験を行う。 ③栽培培地への鉄資材施用がトマトの生育に与える影響:土壌培地において,トマト幼植物に生育阻害を生じさせる鉄資材の濃度を確認した。水耕栽培において,トマトの葉に鉄過剰障害を起こす鉄資材の濃度を確認した。また,水耕栽培において,鉄資材添加区の一部のトマトで地際が褐変すること,その褐変は鉄資材濃度が高くなると多発することを確認した。以上から,今後,生産現場での本鉄資材の処理方法の指針の基礎ができた。 ④トマトへのPC株接種が病害防除に与える効果:qPCRを用いて,PC株を接種したトマトの根と葉における病害防御応答遺伝子の発現を定量解析した。本実験を実証のするためのエビデンスとして重要な解析方法となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①鉄資材等が菌のPC化に与える影響:In vitro実験において,鉄資材を土壌培地に高濃度で混和することにより青枯病菌のPC化を誘導できた。また,高濃度の鉄資材の土壌培地への混和は培養初期の青枯病菌の増殖を阻害した。In vitro実験において,高pHの最小培地への鉄資材混和により青枯菌濃度が高まり,培養初期でPC化の誘導が起きた。In vitro実験において,土壌への低濃度エタノール溶液の混和によりPC 化を誘導できた。そのPC 化は初期菌濃度に影響されず,25℃以上で高頻度に誘導された。さらに,In vitro実験においても低濃度エタノール溶液混和で高頻度にPC 化を起こす条件を確立できた。 ②トマトへの鉄資材施用が青枯病抑制効果に与える影響:鉄資材を高濃度でトマトに浸漬処理すると青枯病の発病が抑制される傾向が確認された(汚染土耕栽培の結果)。一方,同実験において汚染水耕栽培では発病の抑制は認められなかったが水耕栽培の培養液中からPC株が検出された。 ③栽培培地への鉄資材施用がトマトの生育に与える影響:高濃度の鉄資材を混和した土壌培地ではトマト幼植物は生育阻害を受けるが、その生育阻害の程度は栽培時期で異なることを明らかにした。水耕栽培では150 mg/㍑ 以上の鉄資材混和処理でトマトの葉に鉄過剰障害が生じ,トマト地際に褐変が確認された。これらは鉄資材濃度が高くなると多発した。 ④トマトへのPC株接種が病害防除に与える効果:PC株を接種したトマトの根と葉における感染特異的タンパク質を含む二次代謝系遺伝子の計16遺伝子の発現量をqPCRにより定量解析したところ,PC株接種によって複数の病害防御応答遺伝子の発現が誘導され,発現する遺伝子の種類と量は,植物部位で異なることがわかった。以上、①~④の実験は計画通りに実施されている。
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Strategy for Future Research Activity |
①鉄資材等が青枯病菌のPC化に与える影響:2019年度のIn vitro実験の結果を発展させて,In vitro実験の土壌培地においてPC化を迅速に高頻度に誘発する鉄資材の濃度とpH条件を決定する。同様に,低濃度エタノールによる PC 化について,迅速・高頻度に誘導する条件を決定する。鉄資材と低濃度エタノールの組合せによる誘導効果を明らかにする。鉄資材による PC 化と低濃度エタノールによる PC 化した菌の長期的な挙動を明らかにする。さらに,土壌培地への鉄資材および低濃度エタノールの混和が土壌微生物のバイオマス,多様性に及ぼす影響を数種の土壌培地で明らかにする。生産現場の土壌深度を想定したカラム実験(深さ30cm)により,土壌の垂直方向での鉄資材と青枯病菌並びにPC化の動態を調査する。 ②トマトへの鉄資材施用が青枯病抑制効果に与える影響:鉄資材混和により高頻度にPC化した青枯病汚染土壌培地でトマトの生長・罹病の有無を調査する。同汚染水耕栽培装置において,トマト根への鉄資材浸漬処理(鉄濃度・処理時期)が青枯病の防除効果に与える影響を継続調査する。水耕栽培装置の培養液と植物の茎内の青枯病菌の動態を調査することで,鉄資材浸漬処理の効果の要因を明らかにする。 ③栽培培地への鉄資材施用がトマトの生育に与える影響:2019年度の結果(トマト幼植物に対する生育阻害がみられ始める鉄資材濃度)を発展させて,土耕栽培における鉄資材混和処理がトマトの生育および収量果実品質(官能評価、糖,有機酸,アミノ酸の含量)に及ぼす影響を調査する。 ④トマトへのPC株接種が病害防除に与える効果:2019年度の確立したqPCRを用いた病害防御応答遺伝子の定量解析法を用いて,鉄化合物処理による病害防御応答遺伝子の発現応答,PC株と病原性株接種による病害防御応答遺伝子の発現応答について調査を行う。
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