2019 Fiscal Year Annual Research Report
低メタン性をもたらすイネ-土壌ー微生物系の包括的キャラクタリゼーション
Project/Area Number |
19H03096
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
常田 岳志 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (20585856)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西澤 智康 茨城大学, 農学部, 准教授 (40722111)
酒井 順子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 上級研究員 (10354052)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水田 / メタン / 水稲 / イネ / 品種 |
Outline of Annual Research Achievements |
多品種・多系統のイネを対象にメタン排出量を測定するため、携帯型メタン分析計を用いたフラックス測定法の開発・評価を進め、ガス採取・GCによる分析に依存した従来法と比較し、5倍以上のスループットをもつ改良型チャンバ法を開発した。開発した手法を用いてコアコレクション等を対象にメタン排出量を測定したところ、世界の様々なイネの間には3倍以上に上る品種間差が存在することが明らかとなった。フラックスと同時に、土壌間隙水を採取し、溶存ガス濃度、溶存二価鉄濃度、溶存有機態炭素濃度などを調べたところ、これらの指標にも有意な品種間差が確認されたが、メタン排出量の品種間差を精度良く推定することは出来なかった。これらの指標はイネ株からの距離によっても大きく変わることが分かってきたため、今後は採取位置との関係についてより詳しく調査する予定である。 メタン排出量が異なるメカニズムを明らかにするため、メタン排出量の異なる複数品種根圏土壌のセルラーゼ活性を調査した結果、低メタン品種タカナリ根圏の活性は、対象品種コシヒカリ根圏より高い傾向が検出された。すなわちタカナリの土壌有機物・残渣由来のメタン排出の少ない原因が、根滲出物の加水分解抑制(カタボライト抑制)に起因する可能性は低いことが明らかとなった。一方、同活性がコシヒカリに比べて低い、低メタン品種も検出され、低メタン性のメカニズムが一様ではないことが示唆された。 アゾアルカス属細菌をイネ種子への接種することにより、イネ栽培後の水田土壌根域微生物群集に影響を及ぼし、イネ栽培試験中に発生するメタン排出量を約20%減少させた。また、メタン生成・酸化遺伝子を有する土壌微生物の転写発現に影響を及ぼすことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メタン排出量のハイスループット評価法が確立し、今後多数のイネ品種・系統からのメタン排出量を測定するための基盤が整ってきた。メタン排出量の品種間差に関しても年次を超えてメタンが一貫して低い品種がみつかるなど大きな進展があった。さらにイネ種子にアゾアルカス属細菌を接種することでメタン排出が減少することもわかり、想定した以上の成果も得られた。低メタン性をもたらすメカニズムの解明に関しては、仮説検証型の試験で着実に研究を進め、これまでのところ低メタン性が、根滲出物の加水分解抑制(カタボライト抑制)に起因する可能性は低いことが明らかとなった。 一方、低メタン性のメカニズム解明のために土壌水や土壌を採取し、理化学性や微生物性を分析したが、サンプルの採取位置(イネ株からの距離や深度)によって測定値が大きく変わることが分かってきた。これはおそらくイネ根の分布・活性の影響を強く受けるためと思われる。微生物性の網羅的解析などはこの点に関して十分検討してから進める必要があると考え、次年度以降に行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに開発したメタン排出量のハイスループット評価法が世界に早く認知されるようにするため、本手法に関しての投稿論文をR2年度中に執筆・投稿する。その上で本手法を用いた多品種・多系統からのメタン排出量の測定を継続し、メタン排出量の年次間差を調査するとともに、さらなる低メタン品種・系統の探索を続ける。 一方で絞り込んだ少数の低メタン品種を対象に、メカニズム解明のための試験を本格化する。R1年度にサンプルの採取位置によって測定値が大きく異なる事が分かったため、フラックスとよい対応関係を示す採取法の開発を進める。その上で、根圏土壌のメタン生成活性と酸化活性を分子生物学的手法で調査する。 アゾアルカス属細菌接種によるメタン排出量低減については、その要因を明らかにするため、イネ根内のメタン酸化微生物に着目した分子生態学的な解析を行う。
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