2019 Fiscal Year Annual Research Report
骨格筋肥大・萎縮の根幹である筋原線維構造の形成・維持・分解メカニズムの解明
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19H03100
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
西邑 隆徳 北海道大学, 農学研究院, 教授 (10237729)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾嶋 孝一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 上級研究員 (60415544)
鈴木 貴弘 北海道大学, 農学研究院, 助教 (80750877)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ミオシン / 太いフィラメント / 筋原線維 / 骨格筋 / 食肉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、骨格筋の肥大・萎縮メカニズムを解明することを目的に、筋原線維の主要タンパク質であるミオシン分子の細胞内ライフサイクルに着目し、太いフィラメントの形成、維持および分解機構を追究する。今年度は、蛍光標識した遅筋型ミオシン(GFP-Myh7)あるいは速筋型ミオシン(KusabiraOrange-Myh1)を発現するノックインマウスを作出し、GFP-Myh7ノックインマウスのヒラメ筋、あるいはKusabiraOrange-Myh1ノックインマウスの長趾伸筋から単離した筋線維を用いて光退色後蛍光回復法(FRAP)により筋原線維におけるミオシン分子の置換様相を調べた。 遅筋型および速筋型筋線維の筋原線維におけるミオシン分子置換様相を比較した結果、遅筋型は速筋型に比べて蛍光強度回復の程度と速度が大きく、太いフィラメントにおけるミオシン分子の置換は筋線維型によって異なることが示された。この原因を調べるため、タンパク質の翻訳阻害剤シクロヘキシミドあるいはHsp90阻害剤ゲルナダマイシン存在下でミオシン分子の置換様相を調べた。両筋線維型ともに蛍光強度の回復は阻害剤添加区が対照区に比べて有意に小さく(p<0.05)、その抑制割合は遅筋型筋線維の方が大きかった。次に、骨格筋の分解系であるユビキチン-プロテアソーム系およびカルパイン系が太いフィラメントのミオシン分子の置換に及ぼす影響を検討した。プロテアソーム阻害剤MG132を添加し蛍光強度変化を測定した結果、遅筋型筋線維において蛍光強度回復が対照区に比べて有意に小さかった(p<0.05)。しかし、カルパイン阻害剤のカルペプチンを添加した場合は、蛍光強度変化に両筋線維型での差はみられなかった。以上の結果より、筋線維型によるミオシン分子置換様相の違いは、ミオシン分子の合成・分解能の差異が関係している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の全体計画では、筋原線維における太いフィラメントの形成、維持および分解機構を追究するが、今年度は、太いフィラメントの維持機構に焦点を当てて検討した。これまで私たちは、鶏胚由来の培養骨格筋細胞に蛍光標識したミオシン分子を発現させて光退色後蛍光回復法(FRAP)によりミオシン分子の置換様相を調べてきた。しかし、この方法では、内因性の蛍光標識されていないミオシン分子の影響を無視できない。そこで本研究では、GFP-Myh7ノックインマウスおよびKusabiraOrange-Myh1ノックインマウスを作出し、それぞれのヒラメ筋(遅筋)および長趾伸筋(速筋)から単離した遅筋型および速筋型筋線維(単一筋線維)を用いて、ミオシン分子の置換様相をFRAPで調べた。単一筋線維を用いることで、培養骨格筋細胞を用いるよりもよりin vivoに近い条件下でミオシン分子の置換様相を調べることができる。今年度は、筋原線維の太いフィラメントにおけるミオシン分子の置換様相が筋線維型により影響されることを明らかにし、筋線維型によるミオシン分子の置換様相の違いには、ミオシン分子の新規合成、ミオシンの分子シャペロンであるHSP90、ならびにユビキチン-プロテアソーム分解系が関与していることを明らかにすることができた。また、今年度は、蛍光標識ミオシンノックインマウスの単一筋線維を用いたライブイメージング法が筋原線維におけるミオシン分子の動態を観察する有効な方法であることが確認できたので、次年度以降の実験でも本法を用いることで、太いフィラメントの形成・維持・分解様相をよりin vivoに近い状態で詳細に検討することが可能となる。以上のように、本研究は概ね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 筋原線維の太いフィラメントの維持機構:加齢により筋線維は合成・分解のアンバランスにより萎縮が起きるが、遅筋型に比べて速筋型筋線維で萎縮が大きいことが報告されている。本研究では、加齢がミオシン分子の置換に及ぼす影響を検討するために、2か月~2年齢のGFP-Myh7およびKusabiraOrange-Myh1ノックインマウスから単離した遅筋型および速筋型筋線維を用いてFRAPを行う。 2. 太いフィラメントの形成・分解機構:筋原線維の形成・分解過程では筋線維の辺縁部あるいは筋原線維近傍に長さの異なるミオシンフィラメントが存在するはずで、この動態を捉えることができれば、太いフィラメントの形成・分解機構の一端が明らかになる。培養骨格筋細胞を用いてTEMトモグラフィーで、ノックインマウスから単離した遅筋型/速筋型筋線維を用いて超解像度レーザー顕微鏡を用いて筋原線維に組み込まれていないミオシンフィラメントの形態を観察する。さらに、新規合成されたミオシン分子が筋原線維の太いフィラメントにどのように組み込まれるかを明らかにするために、筋原線維を形成しているミオシン分子を緑色蛍光で、新規合成ミオシン分子を赤色蛍光で標識し、ミオシン分子の動態を共焦点レーザー顕微鏡で観察する。 3. ミオシン分子の選別と分解シグナルの同定:太いフィラメントを形成するミオシン分子は最終的にユビキチンプロテアソームシステムで分解される。培養骨格筋細胞から筋原線維画分および細胞質画分を調製し、免疫沈降とイムノブロットの組合せることで、どちらの画分にユビキチン化ミオシン分子の割合が多いのかを調べる。また、ミオシン重鎖特異的にユビキチン付加するユビキチンリガーゼが存在する画分も明らかにする。 以上の実験で得られた結果を取り纏め、日本畜産学会、日本獣医学会およびアメリカ細胞生物学会で成果発表する予定である。
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