2021 Fiscal Year Annual Research Report
ウシのリンパ陰部輪の発見 ―粘膜ワクチン投与部位としての有効性―
Project/Area Number |
19H03113
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
昆 泰寛 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (10178402)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
エレワ ヤセル 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (30782221)
市居 修 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (60547769)
中村 鉄平 北海道大学, 獣医学研究院, 客員研究員 (80786773)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ウシ / 生殖器関連リンパ組織 / リンパ陰部輪 / 粘膜関連リンパ組織 / ヤギ / GOALT / 腟前庭 |
Outline of Annual Research Achievements |
鼻咽頭、腸管、気管などの外界と接する部位には粘膜関連リンパ組織が存在し、病原体を含む異物に対し粘膜免疫を活性化させ、さらに全身の免疫反応制御に深く関わっている。昨年度までに、小動物(マウス、コットンラット)や中大動物(ウシ、ヤギ、ミニブタ、イヌ)の生殖器を形態学的に解析し、中大動物の腟前庭部位にリンパ球の散在性あるいは濾胞性集簇が認められることを明らかにし、「生殖器関連リンパ組織(GOALT)」と定義した。 本年度はウシのモデルとしてヤギを用い、腟前庭にみられるGOALTの構造を中心に精査した。ヤギ(ザーネン種、n=6、非妊娠、1歳以上)の腟前庭を形態学的に観察した。ホールマウント標本では、腟前庭粘膜全体に大小様々なヘマトキシリン陽性スポットが認められ、組織学的にはリンパ濾胞(LF)や散在性リンパ組織(DLT)からなるリンパ組織(LT)だった。免疫染色においては、腟前庭GOALTのLFで、免疫細胞と高内皮細静脈が観察された。GOALTではCD20陽性B細胞が他の免疫細胞と比較して多く存在し、主にLFの胚中心部に認められた。CD3陽性T細胞とIba1陽性マクロファージは、胚中心およびLFと腟前庭上皮の境界部に観察された。さらに、走査型電子顕微鏡観察では、腟前庭GOALTの直上に位置する重層上皮が部分的に破壊されていた。また、GOALT内の免疫細胞や赤血球は結合組織線維間に局在していた。 ウシと同様、ヤギの腟前庭におけるGOALTはリンパ咽頭輪と形態学的類似性を示し、生殖器における免疫ゲートを担うと考えられた。また、GOALTが直接腟前庭の管腔内と交通する構造は特徴的であり、産業動物の感染症発生機序の解明や粘膜ワクチン接種の開発において重要な知見となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は本研究内容の一部を学術論文として公表した。研究は順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
ウシ、ヤギの生殖器関連リンパ組織を引き続き形態学的に解析するが、産業動物として重要なブタとの比較も実施する。具体的には下記項目を検討する。 ① 腟前庭の生殖器関連リンパ組織を構成する細胞:生殖器関連リンパ組織内のリンパ球や抗原提示細胞とそのサブタイプを明らかにする。手法として、細胞マーカーをターゲットとした免疫染色ならびに遺伝子発現解析を行う。こちらは概ね順調に進んでおり、T細胞、B細胞、マクロファージや抗原提示細胞の局在を明らかにした。また、走査型電子顕微鏡解析によって、その表面微細構造を明らかにした。本年度以降は、画像解析ソフトによって3D解析を行うとともに、透過型電子顕微鏡解析を取り入れ、リンパ組織構築の微細構造を明らかにする。 ② 腟前庭の生殖器関連リンパ組織の抗原取り込み機構:生殖器関連リンパ組織を将来のワクチン投与部位として用いる場合、当該部位における抗原取り込み機構の解明は重要となる。ウシあるいはヤギの腟前庭部に模倣抗原(蛍光標識蛋白、ビーズ、色素等)を投与し、採材後その模倣抗原の局在を解析する。特に組織学的解析では、抗原取り込みやその受け渡しに重要な細胞(M細胞、樹状細胞、マクロファージ)の局在も模倣抗原と同時に可視化する。昨年までの解析では、M細胞の同定には至っていない。ウシやヤギのM細胞マーカーを複数検討し、その局在解析を試みる。 ③ 腟前庭の生殖器関連リンパ組織と連絡する周囲リンパ節:②のように模倣抗原を投与後、周囲のリンパ節(特に、浅鼠径リンパ節、深鼠径リンパ節、内側腸骨リンパ節、仙骨リンパ節および腸骨下リンパ節)におけるその局在を経時間的に解析する。昨年度まで用いた模倣抗原では、少量の模倣抗原がリンパ節に認められるのみであった。模倣抗原の種類(径、材質)あるいはアジュバンドの添加も視野に入れ、本年度も引き続き検討を重ねる。
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