2019 Fiscal Year Annual Research Report
Basic study on epithelial-mesenchymal transition leading to intractable fibrosis based on the somatic stem cells
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19H03130
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
山手 丈至 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (50150115)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑村 充 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (20244668)
井澤 武史 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (20580369)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 体性幹細胞 / 難治性線維化 / 上皮間葉転換 / 筋線維芽細胞 / 臓器横断的解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
難治性線維化であるシスプラチン誘発腎線維化とチオアセトアミド誘発肝線維化の病変を、ラットを用いて作製し、以下の成果を得た。 1.腎線維化では、傷害尿細管が再生する時期に一致して線維化が進行し始めた。その線維化に先立ち線維原性因子であるTGF-β1を産生するM2マクロファージの増加がみられた。一方、炎症性の傷害因子を産生するM1マクロファージは尿細管の傷害と一致し病態の早期に出現することが分かった。すなわち、腎線維化の病態はM1/M2分極化により規定されていることが示された。また、線維化部位に形成される筋線維芽細胞はビメンチン、デスミン、α-SMAを種々の割合で発現し、かつカルポニンを発現する筋線維芽細胞も観察された。これらの細胞の起源はThy-1を発現する後腎芽体細胞と関連する可能性が示された。また、正常の腎では、β-カテニンとE-カドヘリンは遠位尿細管で発現し、N-カドヘリンは近位尿細管でのみ発現したが、一方傷害を受けた近位尿細管では、N-カドヘリンの発現が低下し、β-カテニンとビメンチンが新たに発現した。さらに、周囲に高度の線維化が生じる異常な再生を示す尿細管では、上皮細胞におけるβ-カテニンの発現を欠き、筋線維芽細胞と同様にビメンチンとα-SMAの発現がみられた。これは異常な再生尿細管においてEMT現象が生じている可能性を示す。 2.肝線維化では、出現する筋線維芽細胞は、ビメンチン、デスミンそしてα-SMAなどの細胞骨格を様々な割合で発現するとともに、肝星細胞に発現するGFAPを共発現していることが分かった。肝線維化に係わる筋線維芽細胞は、既存のGFAP発現の肝星細胞に由来することが示された。また、筋線維芽細胞の一部にはネスチンを発現する細胞が混在しており、そのような細胞は体性幹細胞(Muse細胞)から形成されている可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生体における組織傷害後の合目的的修復機転である線維化において、傷害された上皮系細胞が間葉系細胞、特に膠原線維を産生する筋線維芽細胞に上皮‐間葉転換(EMT)を介して形成され、線維化の増悪に係るとされる。このEMT には上皮系と間葉系の双方に分化し得る体性幹細胞(Muse 細胞)が関与すると考えている。本研究の目的は、腎に加え、肝、膵、皮膚、心筋そして腸などの多様な臓器にラットを用いて線維化病変を実験的に作出し、臓器間で生じるEMT の病態の普遍性を追究し、そのメカニズムを体性幹細胞を起点として解明することである。初年度においては、腎線維化におけるEMT現象と肝線維化における筋線維芽細胞の体性幹細胞起源との関連を追究し、新たな成果を得ることができたことから、(2)おおむね順調に進展している。と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
線維化に関与する筋線維芽細胞の臓器横断的な特性を解明するために、次年度以降は、ラットを用いてガラクトサミン誘発肝線維化に加え、ジブチルすずジクロリド誘発膵線維化とイソプロテレノール誘発心筋線維化の病態を解析する。また、体性幹細胞の上皮-間葉転換(EMT)、特に筋線維芽細胞形成への係わりを追究するために、独自に開発したラット体性幹細胞認識抗体A3の生物学的性状を明らかにする。 1.筋線維芽細胞の細胞特性の解析:腎線維化に出現した筋線維芽細胞の特性を解明する際に用いた、筋線維芽細胞の基本的な細胞骨格であるビメンチン、デスミン、α-平滑筋アクチンと、さらに肝・膵星細胞に発現するグリア線維性酸性蛋白質(GFAP)に対する抗体を用いて、誘発した肝・膵・心筋線維化に出現する筋線維芽細胞の細胞特性を解明する。この解析では、単免疫染色に加え、これらの細胞骨格の経時的な共発現を二重免疫蛍光染色を施すことで追究する。さらに、線維化の形成にはマクロファージから産生される因子が重要であることから、病変の推移に応じて出現するマクロファージの特性をM1/M2分極化に基づいて評価する。 2.体性幹細胞の筋線維芽細胞形成への関与:未分化間葉系細胞を識別するCD90(Thy-1)やネスチンに対する抗体を用いて、線維化病変における筋線維芽細胞の起源を追究するとともに、上皮系マーカーであるケラチン(AE1/AE3)抗体を適応することでEMT現象と筋線維芽細胞との関連を明らかにする。 3.ラット体性幹細胞認識抗体A3の特性解明:A3は骨髄幹細胞を認識することから、Muse細胞からの筋線維芽細胞の形成を追究する上で有用な抗体と考えている。そこで、ラット胎子の発生組織や皮膚傷害後の再生組織を用いてA3により識別される細胞の動態を解析する。また、誘発した線維化病変にA3を適応し、その発現分布を筋線維芽細胞との関連で追究する。
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