2019 Fiscal Year Annual Research Report
家畜胚の発生能向上を目指した発生制御の分子機構探求に関する基盤研究
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19H03135
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内藤 邦彦 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (20188858)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 家畜胚 / Cyclin A / BORA / MPF |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、M期促進因子(MPF)を中心に、発生制御の分子機構探究を目的とした。実験材料には主要な家畜であるブタの初期胚を用いることとし、まず、培養系の確認を行った結果、卵割率は培養48時間後(38 %)まで上昇し、以後は横ばいとなった。本年度は特に、近年アフリカツメガエルでこの時期のMPF活性化に関与が報告されたCyclin Aに端を発し BOTA、Aurora A、PLK1と続くカスケードの機能について調べることとした。そのために、ブタのCyclin A1、BORA、PLK1の遺伝子をブタ未成熟卵の全RNAよりクローニングし、これらの全長mRNAの取得に成功した。なお、ブタAurora Aは既に当研究室で以前クローニングしている。検出用のFLAGタグを付加したこれらのタンパク質のmRNA合成用ベクターの構築も完了し、ブタ未成熟卵の細胞質中に合成mRNAを注入することで発現も確認できた。これらを用いた抗体検査により、信頼しうるCyclin A2、BORA、リン酸化PLK1(pPLK1)、汎PLK1抗体も入手することができた。そこで、免疫ブロットにより初期胚のこれらのタンパク質の発現変動を解析した結果、BORA、Aurora A、全PLK1は活性化前の成熟卵から培養後48時間までほぼ一定であった。これに対しCyclin Bは成熟卵では高く、活性化後6時間では低下しその後24時間まで増加した。Cyclin A2とpPLK1は成熟卵では低く、それぞれ活性化後12時間と18時間から24時間まで増加した。以上の結果はXenopusの報告と矛盾しないものであった。この点を確認するため24~48時間の胚にCDC25阻害薬のVanadateを処理してM期直前で停止させ、Cyclin AとpPLK1の過剰発現を試みた。しかし、細胞周期が停止しなかったことから、確認をとるには至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
屠畜場から購入したブタ卵巣より採取したブタ未成熟卵を体外で成熟培養し電気刺激により活性化し、胚盤胞までの発生率を確認し、これの向上に努めたが胚ゲノム活性化に関する研究に十分な材料を直ちに得るのは難しいとの結論に至り、当面は安定的に材料を得られる第一卵割に焦点を絞り研究を進めることにしたが、この結論を得るまでの試行錯誤にやや時間を費やした。また、ブタ初期胚に対してmRNA注入による過剰発現の可否を調べたところ、卵巣から採取直後の未成熟卵では高率であるのに対し、受精直前の成熟卵では半減し、ブタ初期胚ではわずか1 %と極めて低率であった。そのため、ブタ初期胚での過剰発現は困難と考え、当面は阻害剤を用いた実験に切り替えたが、これにも少なからず時間を取られた。なお、第一卵割に焦点を絞り研究を進める場合、mRNAの注入は初期胚ではなく成熟卵を用いることが可能なため、発現率が半減するとしても実験は可能であることは確認できた、また、比較のために行った成熟途上卵を用いた実験ではCyclin Aは過剰発現により減数分裂を促進すること、一方、BORAはむしろ成熟を抑制するという結果が得られている。これらの予定外の確認作業に加え、新型コロナウイルスの感染拡大の防止措置により3月より実験が止まってしまったことが現状区分となった理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、RNA注入法による過剰発現、発現抑制を第一卵割に対して行い、実際にこの時期のMPF活性化の制御に関与するかを解析していくことに主眼を置く。具体的には検証するカスケードの最上流因子であるCyclin Aの抑制、およびAurora Aの過剰発現を第一に考えているが、これに加え減数分裂再開時の卵母細胞においてMPF活性化に関与する因子の多くを当研究室でこれまでにクローニングしており、それらの卵割への関与も検討する。対象としては第一卵割開始前のブタ初期胚を主とするが、比較のため減数分裂再開時の卵母細胞も用いることとし、in vitroでアンチセンスRNAやmRNAを合成し、体外成熟培養後の成熟卵の細胞質へ注入し、その後電気刺激により作成したブタ1細胞期胚の第一卵割に及ぼす影響を解析する。RNAの注入に際しては緑色蛍光タンパク質mRNAを共注入し、蛍光の発現をもって顕微注入の成功、卵の生存性と翻訳能を確認し、外因性因子の発現は融合したFLAGタグにより確認する。また、RNA注入法に加え特異的活性化剤や阻害剤による人為的活性変動も用いる。第一卵割に及ぼす影響の指標としては、実際の卵割状態を実態顕微鏡で観察するほか、免疫ブロットによるpPLK1の状態確認、MPFキナーゼ活性測定キットによるMPF活性測定、およびMPFのサブユニットであるCyclin B1、Cyclin B2の発現、CDK1のY15とT161のリン酸化状態を免疫ブロットにより検出する。 その他、初期胚の生理状態についても解析していく。現在、予定している生理状態の項目としては、DNA複製(BrdUの取り込みを免疫染色で確認する)、ミトコンドリア活性(JC1染色およびRhod-2AM染色)、ヒストン修飾状態(各種抗ヒストンアセチル化抗体および抗ヒストンメチル 化抗体による免疫染色)などを考えている。
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