2020 Fiscal Year Annual Research Report
家畜胚の発生能向上を目指した発生制御の分子機構探求に関する基盤研究
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19H03135
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内藤 邦彦 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (20188858)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 家畜胚 / Cyclin A / MPF / Cyclin B |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近年アフリカツメガエルで第一卵割開始時のM期促進因子(MPF)活性化への関与が報告されたCyclin Aに端を発し BORA、PLK1と続くカスケードが、哺乳類の初期発生制御にも機能している可能性を中心に調べた。比較のためブタ卵母細胞の減数分裂開始時についても調べた。各因子の動態解析では、Cyclin A、BORA、PLK1の存在、およびMPF活性化と同時期にPLK1がリン酸化し活性化されることが減数分裂、第一卵割の両開始時で明らかとなり、このカスケードの機能が示唆された。しかし、減数分裂開始時にはCyclin Aの合成が起こらず、またPLK1のリン酸化はMPF活性化の結果であることが判明し、生理的にはこの経路は機能していないことが示された。一方、初期胚の第一卵割の開始時に確認されていたCyclin Aの増加を、in vitro合成のアンチセンスRNA顕微注入により抑制したところ、第一卵割が有意に抑制され、多くの胚が1細胞期の前核期に留まることが示された。なお、同時期に見られたPLK1リン酸化がMPF活性化の結果である可能性を否定するため、PLK1の下流でMPF活性化に作用するCDC25を阻害したところ、減数分裂とは異なり第一卵割は抑制されないことが示され、MPF活性化の機構の大転換の可能性も示唆された。Cyclin A/CDK1はCDC25活性への依存が低いことが知られており、ブタ胚ではCyclin AがCyclin Bに代わってMPFとして直接作用するという重大な結果も示唆される。この場合、Cyclin A2抑制による第一卵割の抑制という結果は、カスケードを介さず直接MPFとしてのCyclin A/CDK1活性の抑制に働いた可能性がある。また、Cyclin AはS期の進行にも機能するとされるため、S期抑制の結果とも考えられ、今後これらの点を確認する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響で、屠場におけるサンプル採取、および対面を余儀なくされる実験の実施に制約があり、全体的に進捗が遅れた。加えて、ブタ初期胚においては、従来、卵母細胞や体細胞でMPFと考えられてきたCDK1/Cyclin B複合体ではなく、CDK1/Cyclin A複合体がMPFとして直接作用する可能性が示唆されるという、当初予想していなかった展開となったため、この点を確認するための新たな実験を予定したため、研究の完了が若干遅れることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の実験から浮上してきた可能性、すなわちブタ初期胚においては、① Cyclin AがBORA、Aurora A、PLK1、(CDC25、CDK1/Cycllin B)と続くカスケードを介さず、直接MPFとしてCDK1/Cyclin Aのかたちで作用する可能性、また、② Cyclin Aの抑制がS期抑制の結果として第一卵割を抑制している可能性、の2点の検証を目的として以下の実験を行う。すなわち①に関しては、CDK1/Cyclin B複合体の活性を抑制しても卵割が進むこと、さらにこの条件でもCyclin Aの発現が卵割を促進することを示す。具体的にはCyclin B1とCyclin B2のアンチセンスRNA、およびCyclin A2のmRNAをin vitroで合成し、ブタ成熟卵の電気刺激による活性化の4時間後に初期胚の細胞質に顕微注入することにより、Cyclin A2の過剰発現、およびCyclin B1とCyclin B2の発現抑制をして、卵割への影響を調べる。また、Cyclin A2のアンチセンスmRNA注入による発現抑制も行い、本年度の結果の再現性を確認する。②に関しては、S期のDNA合成が起こっていることを確認するため、DNAの塩基の代わりに取り込まれることが知られているブロモデオキシウリジン(BrdU)を培地に添加し、Cyclin A2の発現抑制条件下でS期に相当する時間培養してDNA合成をBrdUの免疫染色により確認する。Cyclin A2の発現を抑制しないコントロールと比較しS期の進行を評価する。これらの実験結果からブタ初期胚ではCDK1/Cyclin A複合体がCDK1/Cyclin B複合体に代わってMPFとして直接作用する可能性を考察する予定である。
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