2019 Fiscal Year Annual Research Report
Epigenetics from totipotency acquisition to cell differentiation during early embryogenesis
Project/Area Number |
19H03136
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
南 直治郎 京都大学, 農学研究科, 教授 (30212236)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | H4K20me1 / マウス初期胚 / SETD8 / H4K20M置換体 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マウス初期胚のゲノム安定性維持に関わるエピジェネティック修飾であるヒストンタンパク質H4K20モノメチル化(H4K20me1)の機能を解析した。初期発生におけるH4K20me1レベルの変化を詳細に調べた結果、1細胞期から胚盤胞期まで常にH4K20me1が検出され、特に桑実胚期においてH4K20me1レベルが高かった。また、初期発生の後期の段階である桑実胚期や胚盤胞期では割球ごとにH4K20me1レベルが大きく異なっていた。H4K20のメチル化酵素であるSETD8の阻害が初期発生に与える影響を調べた結果、20mol/LのUNC0379処理を行った受精卵はすべて1細胞期で発生を停止した。また、H4K20のリジン残基をメチオニン残基に置換した実験においては、すべての胚が2細胞期で発生を停止した。以上のことから、H4K20me1が初期発生に重要であることが明らかになったことから、H4K20がゲノムの安定性にどのように影響しているかを検討した。SETD8阻害剤を用いた実験区においては、DNAの二本鎖切断のマーカーであるγH2AXシグナルが受精後15時間の1細胞期胚のG2期において増加した。また、H4K20のリジン残基をメチル基に置換した実験区においては、受精後34時間の2細胞期のG2期においてγH2AXシグナルが増加した。以上のことから、エピジェネティック修飾の一つであるH4K20me1がゲノムの安定性を通じて初期胚の発生を維持していることが明らかになった。また、対照区においてもγH2AXシグナルが周期的に変動しており、培養環境において胚が常にゲノムの安定性を脅かされる環境にあることが明らかになり、H4K20me1を指標とした受精卵の培養環境の改善の可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、上記に示したH4K20以外のエピジェネティック修飾が初期胚の発生に及ぼす影響も検討してきており、遺伝子発現の抑制に機能するH3K9のトリメチル化(H3K9me3)を脱メチル化する酵素であるKdm3a、Kdm3bあるいはH3K9me3を認識し、遺伝子発現の抑制に関与するPWP1の解析についても、多くの知見が得られている。Kdm3aとKdm3bを同時に抑制すると、多能性のマーカー遺伝子であるOct4の発現と原始内胚葉マーカーであるGata6の発現が抑制され、栄養外胚葉マーカーであるCdx2の発現上昇が確認された。また、PWP1を抑制すると、桑実期で発生を停止する胚が多くみられた。これらの胚においては、原始内胚葉マーカーであるGata4とGata6の発現が抑制され、分化抑制が起こったことにより、発生が停止したと考えられる。 これらのことから、H3K9me3は細胞の分化運命を決定する時期に多能性関連遺伝子や栄養外胚葉関連の遺伝子の発現を正常に維持することで、胚の形成に重要な役割を持っていることが示された。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、さらに多くのエピジェネティック関連因子の解析を行うことを予定している。これまでの研究から、受精直後の全能性を持った胚が将来胎子に発生する内部細胞塊や将来胎盤に発生する栄養外胚葉に分化する過程で機能するエピジェネティック関連因子が徐々に明らかになってきたが、受精による全能性の獲得については、得られている知見は乏しい。胚性ゲノムの活性化とほぼ同時期に全能性の獲得が誘導されていることを考えると、この引き金を引く因子が終末分化した精子と卵子のゲノムが統合された後のエピゲノムを制御する過程に重要なヒントがある。このヒントをうまく利用して全能性のエピゲノムを解析する。
|
Research Products
(11 results)