2020 Fiscal Year Annual Research Report
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19H03162
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
山形 敦史 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (20463903)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シナプス / 結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、共同研究者の富山大学・吉田知之准教授らが新たに見出したRPTPに対する新規のシナプスオーガナイザーであるニューロリギン3(NLGN3)とPTPδとの細胞外複合体について結晶構造解析法によって立体構造を決定した。NLGN3はPTPδだけでなくニューレキシン(Nrxn)と結合しシナプス誘導することが既に知られている。NLGN3とNrxn複合体の構造との比較により、NrxnとPTPδがNLGN3の結合に対して排他的であることが分かった。構造に基づいた変異体作製と定量的相互作用により、NLGN3のPTPδとNrxnへの結合をそれぞれ特異的に欠失させた変異体NLGN3の作製に成功した。吉田准教授らは、これらの変異体NLGN3のノックインマウスの作製とその行動解析を行い、NLGN3がNrxnとPTPδという結合相手の異なるパスウェイによって最終的な社会性の違いを生み出していることを明らかにした。これらの研究結果をまとめて投稿し、Nat. commun. 誌に受理された。 Nrxnとそれに結合し、膜への輸送を正に制御する因子SorCS2との複合体について、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析を行った。通常の氷包埋の条件では粒子の判別がうまくいかず二次元クラス分けでもNrxn-SorCSと思われる粒子像に収束しなかった。これは粒子のサイズに比べて氷が厚く十分なコントラストが得られなかったためと思われる。そこでグラフェン膜を貼ったグリッドを調整し、それを用いてクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析を行った。その結果、二次元クラス分けにおいて明らかにNrxn-SorCSと思われる粒子像を得ることができ、三次元像の構築にも成功した。現在のところ分解能が8Å程度であり、さらなる改善が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請の提案課題の一つ、シナプスオーガナイザーであるIIa型受容体チロシンホスファターゼ(RPTP)と、その細胞内ホスファターゼドメインに結合するリプリンαとの複合体形成に関しては、結晶構造解析による構造決定と構造に基づく定量的相互作用解析、さらにCRISPR/Cas9法を用いた変異遺伝子のノックインとその神経細胞を用いたシナプス誘導解析に成功した。それらの結果をまとめて2020年に投稿論文として発表した(Wakita et al. 2020 Nat. commun.)。本申請のもう一つの提案課題である、シナプスオーガナイザーであるニューレキシンと、それに相互作用して局在を制御する細胞接着因子 SorCS との複合体形成に関しては、現在クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析に取り組んでいる。クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析を行い、分解能8Å程度の三次元像の構築に成功している。 本申請の際に提案した課題に加えて、当該年度は新たに見出したシナプス形成を誘導するタンパク質複合体、NLGN3-Nrxn複合体に注目して研究を進めた。結晶構造解析、定量的相互作用解析、さらに変異遺伝子を用いたマウスの行動解析を行い、NLGN3がNrxnとPTPδという結合相手の異なるパスウェイによって最終的な社会性の違いを生み出していることを明らかにした。これらの研究結果をまとめて投稿し、Nat. commun. 誌に受理された。以上より、本申請の際に提案した課題については既に投稿論文一報に発表しており順調に進捗している。さらに、新たな課題についても順調に進捗し、既に投稿論文一報が受理されている。以上より、概ね順調に進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、まずNrxn-SorCS複合体についてクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析による高分解能構造解析を目指す。当該年度の結果から、グラフェングリッドによって分解能が大きく改善することが分かった。当該年度はフレークより作製したグラフェン膜を貼ったグリッドを用いた。しかし、グラフェン膜の皺や重なりによるバックグラウンドノイズが粒子の判別に悪影響を与えており、それが分解能が伸びない原因の一つと考えられる。そこで、その改善としてCVD法によって作製したグラフェン膜を用いたグリッドの作製と使用を行う。CVD法は銅などの金属表面に単相のグラフェン膜を生成させる技術で、フレーク法よりも綺麗なグラフェン膜を形成させることが可能である。まず、CVD法によるグラフェングリッド作製法を確立する。そのグリッドを用いてクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析による高分解能構造解析を目指す。また、今年度より申請者が所属する理化学研究所に加速電圧 300 kV のクライオ透過電子顕微鏡(FEI社 Titan Krios)が導入された。この最新のクライオ電子顕微鏡を用いることにより、さらなる分解能の向上が期待される。
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Research Products
(3 results)