2020 Fiscal Year Annual Research Report
ピロリン酸の多様な機能の分子細胞生物学的解明:エネルギー・代謝・シグナル
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19H03177
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
前島 正義 中部大学, 応用生物学部, 教授 (80181577)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬上 紹嗣 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (00765935)
高田 奈月 (田中奈月) 名古屋大学, 高等研究院(農), 特任助教 (00824070)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 液胞 / プロトンポンプ / ピロホスファターゼ / ピロリン酸 / 酵素特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞ではATPを中心とするエネルギー循環が成立している。本研究では、もう一つの高エネルギーリン酸化合物としての無機ピロリン酸(PPi)に注目している。PPiはDNA、タンパク質、セルロース等の合成反応で生成する。高濃度PPiはこれらの高分子合成反応を抑制するので、PPi濃度は低めに維持されている。植物では、液胞膜H+輸送性ピロホスファターゼ(H+-PPase)と可溶性のピロホスファターゼがPPiを加水分解する。両遺伝子の破壊株では液胞pH上昇、PPi濃度上昇、細胞壁脆弱化等がみられる。PPiの濃度調節の破綻により細胞機能が損なわれる。本研究では、PPiに焦点を当て、外部PPiの吸収と利用の能力、PPiによるイオン輸送のエネルギー供給、PPiによる窒素代謝制御等の多様な新たな役割を探ることを目的とする。下記に進捗を述べる。 PPiを加水分解する酵素にはH+-PPaseおよび可溶性PPaseがある。これらの遺伝子を欠失するとPPi濃度が高くなることも明らかにしている。H+-PPase単独破壊株、可溶性PPaseとの二重破壊株を、アンモニウム欠失培地で栽培すると葉の組織細胞、および細胞壁が異常となり、本葉の細胞死が生ずる。これらは培地にアンモニアを添加することで回復する。関連遺伝子の欠失により、細胞内のPPi濃度を低く保つ機構が崩壊しているため、各組織の細胞分裂と細胞成長、窒素代謝等に異常が生じていると判断した。 新たに、無機リン酸濃度を低下させた培地条件で、PPiを吸収し細胞成長に有効活用できるかを、野生株とH+-PPase欠失株で比較する実験を開始した。さらに、H+-PPaseの分子多様性を検討するため、高温耐性のサボテン組織から調製した液胞膜を試料としてH+-PPase活性の温度特性を解析したところ、50℃において最大活性を示し、酵素自身も高温耐性であることが明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述のように、論文発表に至る成果を挙げた計画項目、あるいは根端でのデンプン合成とH+-PPase、可溶性PPaseの関係解析のように知見が蓄積しつつある実験項目もあった。一方、コロナ禍で実験を実施できる者の人数と実験可能な時間が大きく制約を受けたためいくつかの実験が滞った。例えば、タンパク質リン酸化にPPiが関与するか否かの実験も計画を立てる段階に留まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の実験計画に沿い、下記の研究を中心に進めたい。 (1)根端細胞におけるデンプン蓄積は重力屈性に必須であるが、H+-PPaseと可溶性PPaseの欠失、過剰によりPPi濃度が異常となり、デンプン合成が抑制される現象について、さらに詳細を検討していく。 (2)シロイヌナズナの野生株とH+-PPase、可溶性PPaseの遺伝子欠失株も利用して、培地のPPiを吸収し利用できるシステムを持っているのか否か検定する。すなわち、リン酸欠乏培地にPPiのみをリン源として加えた培地を調製し、この培地を用いて野生株、各種変異株を栽培し、通常培地との差、野生株と変異株の差を解析し、PPi培地でも生育できることが判明すれば、PPiの加水分解と利用系を解析していく。現時点では明確な結果が得られていないので、再度、検証し結論を導きたい。 (3)栽培条件(Pi濃度、金属等)を変えることで、H+-PPase、可溶性PPaseの量がどのように変動するかを解析し、PPiとPi、ATPとの濃度調節における連動性を明らかにする。 (4)高温耐性なサボテンのH+-PPaseの特徴を、ヤエナリあるいはシロイヌナズナの酵素の分子構造と機能の視点で比較し、異常な生育環境でのH+-PPaseおよびPPiの役割を分析する。
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Research Products
(6 results)