2020 Fiscal Year Annual Research Report
栄養レベルに応答して寿命を調節する細胞内情報ネットワークの研究
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19H03224
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
塩崎 一裕 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (00610015)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | mTOR / 分裂酵母 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、哺乳類細胞と同様のmTORシグナル経路をもち、遺伝学的解析の容易な分裂酵母をモデル系として、栄養源に応答したmTOR活性制御機構を明らかにするとともに、その下流因子の寿命決定における役割を解明する。 われわれは、分裂酵母RagA-RagC (Gtr1-Gtr2とも呼ばれる)の解析から、RagAがGDP結合型になると、mTORC1活性を抑制することを発見した(Chia et al. 2017 eLife)。RagAあるいはRagCを欠損した分裂酵母株は、アミノ酸の取り込みや接合に欠損が見られるなどの表現型を示し、また、これらの表現型がラパマイシンによって抑制されることから、TORC1活性の異常亢進が起きていると考えられる。さらに、RagAの制御因子として、哺乳類のGATOR複合体にあたるタンパク質複合体を分裂酵母で同定し、その機能を解析している。興味深いことに、分裂酵母GATOR2複合体構成因子の遺伝子破壊株は顕著な表現型を示さず、現在提案されている哺乳類GATOR2複合体の機能とは相入れない結果となっている。 また、われわれは、分裂酵母mTORC1の温度感受性変異を多コピーで相補する遺伝子として転写因子Sfp1の遺伝子を単離した。Sfp1タンパク質の安定性はmTORC1活性で制御されており、栄養飢餓によってmTORC1が不活化すると、Sfp1タンパク質の急速な分解がおこる。出芽酵母の相同因子と同様、分裂酵母Sfp1はリボソームタンパク質遺伝子の発現を誘導しており、mTORC1の下流でタンパク質合成を正に制御していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、分裂酵母のGATOR2複合体の遺伝解析をさらに進めた。分裂酵母GATOR2複合体は、Sea2、Sea3、Sea4、Sec13、Seh1から構成されているが、遺伝子破壊実験を行ったところ、Sea3の遺伝子破壊が特徴的な表現型を示した。すなわち、野生株に比べ、生育が損なわれるが、mTORキナーゼの阻害剤であるラパマイシンを培地に添加することで生育阻害が相補される。この表現型は、GATOR1欠損表現型と酷似しており、Sea3がmTORC1経路の抑制制御に関わっていることを示唆した。生化学的解析によって、Sea3がGATOR1に直接結合していることが示され、また、恒常的にGDP結合型のRagA変異体を発現することでSea3欠損表現型が相補されたことから、Sea3はGATOR1複合体の一部としてGタンパク質RagAのGTPase-Activating Protein (GAP)として機能していることが明らかになった。これは、Sea3のヒト相同因子WDR59が、GATOR1の機能抑制に働くGATOR2複合体を構成しているという現在のモデルとは相反する結果であり、極めて興味深い。 この GATOR1-Sea3 複合体は、窒素源飢餓に応答したmTORC1の不活化に重要な役割を果たす。一方、アミノ酸飢餓に応答してmTORC1を不活化するのに必要な因子を探索したところ、Gcn2キナーゼが同定できた。Gcn2は酵母からヒトに至る真核生物に保存されており、アミノ酸飢餓状態の細胞内でアミノアシル化されていないtRNAが生じることによって活性化され、細胞の飢餓応答を誘導する。さらに、Gcn2の基質であるeIF2α、さらに下流の転写因子Fil1もアミノ酸飢餓に応答したmTORC1の抑制に必要であることを示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
RagA-RagCやGATOR1複合体を欠損した分裂酵母株では、抑制制御を失ったmTORC1の活性が異常亢進し、生育が損なわれるが、生育の回復した復帰突然変異体が高頻度で単離できる。これらの変異体のゲノムsequencingによって、これまでにmTORC1経路との関係が知られていなかったタンパク質キナーゼ遺伝子の変異が新たに同定された。この遺伝子の変異の性質およびmTORC1経路との関係の解析を進める。この復帰突然変異体解析では、mTORC1の活性化因子の機能喪失変異が最も単離されやすいと予想されるが、興味深いことに、mTORC1の負の制御因子として知られるTSC複合体の点変異も同定された。この変異がどのようにmTORC1活性に影響を与えるのか分析を行う。また、これまで解析してきたStress-activated Protein Kinase (SAPK) のSpc1に加え、分裂酵母のもう一つのSAPKであるPmk1についてもmTORC1経路との機能的相互作用を検討することで、mTORC1経路とMAPキナーゼ経路とのクロストークを明らかにしていく。
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[Journal Article] Tripartite suppression of fission yeast TORC1 signaling by the GATOR1-Sea3 complex, the TSC complex, and Gcn2 kinase2021
Author(s)
Fukuda T, Sofyantoro F, Tai YT, Chia KH, Matsuda T, Murase T, Morozumi Y, Tatebe H, Kanki T, Shiozaki K.
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Journal Title
eLife
Volume: 10
Pages: e60969
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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