2020 Fiscal Year Annual Research Report
ミトコンドリア形成に関与するリン脂質の輸送と代謝、及びその損傷による病態の解明
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19H03226
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
久下 理 九州大学, 理学研究院, 教授 (30177977)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮田 暖 九州大学, 理学研究院, 助教 (10529093)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リン脂質 / 細胞内輸送 / 代謝調節 / ミトコンドリア / 小胞体 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究項目(1)ミトコンドリアの形成に関与するリン脂質の輸送・代謝機構の解明 これまでに我々は、酵母の遺伝学的相互作用の網羅的解析等により、ミトコンドリア内ホスファチジルエタノールアミン(PE)、あるいはカルジオリピン(CL)生合成に関与する新規リン脂質関連遺伝子の同定を試み、POR1、POR2、MDM31、MDM32、UPS2、VID22、TAM41、FMP30、ICE2、SCS2など、リン脂質代謝に関与する遺伝子を新たに多数同定した。2020年度は、これら遺伝子の中で、POR1とICE2の機能解析に大きな進展があった。即ち、i)POR1の遺伝子産物であるPor1のいくつかの点変異がミトコンドリアにおけるPE合成を促進すること、ii)ICE2の遺伝子産物が、細胞内のホスファチジン酸とジアシルグリセロールの量の変動を介して、ホスファチジルセリン脱炭酸酵素(Psd1)(ミトコンドリアと小胞体の両者に局在する)の小胞体での安定化とPsd1によるPE合成の調節に関与していることを明らかにした。 研究項目(2)ミトコンドリアリン脂質の環境変化時特異的機能の解明 我々は、生物種間で高度に保存された出芽酵母のミトコンドリア膜間腔タンパク質Ups2(ヒト:SLMO2)が、ダイオキシックシフトと呼ばれる環境変化時特異的に発現誘導され、リン脂質ホスファチジルセリン(PS)のミトコンドリア内膜への輸送を活性化し、PS脱炭酸によるホスファチジルエタノールアミン(PE)の合成を促進することを明らかにした。また、2019年度の本研究により、このUps2の活性化によるPEの増加が細胞周期の制御に関与する可能性が示唆された。2020年度は、UPS2のヒトホモログSLMO2の細胞周期関連機能を解析し、その損傷が、ある種のがん細胞特異的に生育損傷を引き起こすことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究概要の実績に記載してあるように、i)POR1の遺伝子産物であるPor1のいくつかの点変異がミトコンドリアにおけるPE合成を促進すること、ii)ICE2の遺伝子産物が、細胞内のホスファチジン酸とジアシルグリセロールの量の変動を介して,小胞体に局在するホスファチジルセリン脱炭酸酵素(Psd1)の安定化とPsd1によるPE合成の調節に関与していること、及び、iii)UPS2のヒトホモログSLMO2の損傷が、ある種のがん細胞特異的に生育損傷を引き起こすことを明らかにした。これらを学会で発表することができ、順調に研究は進展しているが、まだ論文発表に至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究項目(1)ミトコンドリアの形成に関与するリン脂質の輸送・代謝機構の解明 これまでに我々は、遺伝学的相互作用の網羅的解析等により、ミトコンドリア内PEとCL生合成に関与する 酵母の新規リン脂質関連遺伝子の同定を試み、論文発表済みのPOR1、POR2、MDM31、MDM32、UPS2、VID22、TAM41、FMP30 や未発表のICE2、SCS2など、 リン脂質代謝に関与する遺伝子を新たに多数同定した。2021年度は、これまでに引き続き、これら遺伝子の中で、機能解明が不充分な遺伝子のリン脂質代謝における機能をさらに詳細に解析する。また、機能解析が比較的に良く進んだPOR1遺伝子に関しては、そのヒトオルソログの機能を哺乳動物細胞を用いて解析する。 研究項目(2)ミトコンドリアリン脂質の環境変化時特異的機能の解明 我々は、生物種間で高度に保存された出芽酵母のミトコンドリア膜間腔タンパク質Ups2(ヒト:SLMO2)が、ダイオキシックシフトと呼ばれる 環境変化時特異的に発現誘導され、リン脂質ホスファチジルセリン(PS)のミトコンドリア内膜への輸送を活性化し、PS脱炭酸によるPEの合成 を促進することを明らかにした。また、2020年度までの研究により、このUps2の活性化によるPEの増加が細胞周期の制御に関与する可能性が示唆され、さらにUPS2のヒトホモログSLMO2の損傷が、ある種のがん細胞特異的に生育損傷を引き起こすことを明らかにした。そこで、今後は、SLMO2を抗がん剤の標的とする観点から、その機能を詳細に解析する。
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