2019 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on regulatory mechanisms for mammalian embryos by mechanical forces
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19H03238
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Research Institution | Osama Woman's and Children's Hospital |
Principal Investigator |
松尾 勲 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所), 病因病態部門, 部長 (10264285)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マウス胚 / メカニカルフォース / 形態形成 / 子宮内圧 / 卵円筒形成 / 前後軸形成 / 細胞変形 |
Outline of Annual Research Achievements |
マウス胚は、受精後子宮に着床し、子宮内で発生する。現在までに、子宮から胚への圧力や細胞間・組織間にかかっている力が胚の正常発生に必要であることを明らかにしている。しかし、発生初期の子宮内や胚内でかかっている力はどれほどの大きさで、どのように伝えられ、形態形成に関与しているのかは不明である。また、マウスの着床後胚は、ライヘルト膜とよばれる基底膜に包まれ、更に子宮内膜組織である脱落膜に囲まれており、子宮筋収縮などの機械的力は、これらの胚本体以外の構造を介して胚内に伝わる。本年度は、胚の形態形成に関わる力学的環境を解明することを目的に以下の知見を得た。 ①マウスの子宮筋収縮による圧力を微小なカテーテル型圧力計測機で測定したところ、妊娠前では強度も小さく、頻度も低かったが、妊娠後には明確に強度・頻度とも大きくなり、着床1日後には最大になり、その後減弱することがわかった。 ②筋肉弛緩剤を用いて妊娠マウスの子宮筋収縮による圧力を3割程度低下させたところ、胚では遠位臓側内胚葉が形成されず、前後軸が正常に形成されなかった。この結果は、子宮筋から生じる圧力は、正常な胚発生に重要であることを示している。 ③更に、ライヘルト膜を持たないラミニン遺伝子欠損胚においては、胚が正常に成長できず、変形してしまうことが知られている。そこで、筋肉弛緩剤を用いて子宮内圧を低下させると、ラミニン遺伝子欠損胚で観察される変形が正常へと回復した。つまり、正常胚ではライヘルト膜という膜で覆われることで過大な子宮内圧から胚を保護していることが示唆される。 以上の結果から、マウスにおいて子宮筋収縮・弛緩で生じる圧力は、着床直後の正常な胚発生に重要な機能を果たしていること、その一方、この圧力は、過大にかかると、胚は変形してしまい正常な発生が阻害されることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
マウス初期胚を覆っているライヘルト膜の機能に関して、母体との間で栄養やガス交換、免疫的隔離以外の機能は明らかにされていなかった。今回、子宮筋収縮・弛緩によって生じる圧力が過大に胚にかからないようにライヘルト膜が力学的な緩衝剤として働いていることを明らかにすることができた。更に、子宮筋収縮・弛緩によって生じる圧力が低すぎても、遠位臓側内胚葉(前後軸)が形成されないという発生異常が見られたことから、この子宮内圧力が正常発生においても必要な重要な働きをしていることを明らかにすることができた。つまり、ライヘルト膜は、子宮筋からの圧力を強すぎず、弱すぎず適度に調整することで初期胚発生に必須な機能を果たしていることを明確に証明できた点において計画以上に進展したといえる。また、これらの研究成果については、年度末に国際雑誌に最終稿を投稿することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、子宮筋収縮によって胚にかかる圧力が、マウス初期胚の形態変化に関与しているという仮説を強化するため、以下の研究計画を進める予定である。 マウス胚の卵円筒構造であるエピブラスト領域を取り囲んでいるライヘルト膜とその外側に存在する子宮内膜組織の硬さ(弾性率)を原子間力顕微鏡で測定する。また、子宮筋から胚にかかる圧力に方向性があるかどうか、微小な小動物用の圧力計測機器を用いて、脱落膜周辺の圧力を異なる方向性や場所にプローブを挿入し、子宮内の圧力計測を行う。更に、ライヘルト膜形成不全を示すLama1遺伝子やFktn遺伝子の欠損胚において、胚の周辺環境の物理的特性がどのような変化しているのか上述の手法で計測・解析する。 上述の結果から、子宮筋から胚にかかる圧力とほぼ同じ強度で、同じ方向性をもった圧力を再現する培養下に胚をおき、胚の形態変化を解析する。特に、ライヘルト膜を持つ胚、ライヘルト膜を除去した胚、密閉されていない不完全なライヘルト膜を持つ胚などを培養してその表現型を比較することで、子宮側からの圧力がライヘルト膜を介することで、どのような影響を胚に与えるのか子宮外培養下で解析する。 子宮内での圧力が胚にどのような影響を与えるか明らかにするため、ライヘルト膜が失われて過大な圧力が直接かかっているLama1遺伝子欠損胚とそうでない野生型胚からRNAを抽出する。マイクロアレイ法やRNA-seq法にて両者のRNA発現プロファイルを比較・解析することで、両者の間で大きく変動した遺伝子群を網羅的に同定する。これらの発現解析から、どのような分子経路が子宮内圧の下流に位置し、形態変化に関与しているのか明らかにする。 以上の解析から、子宮内の圧力とそれを取り囲む物理的な環境がマウス初期胚の形態形成に果たす役割を解明する。
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