2019 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of molecular mechanisms of dehydration stress sensing via mobile peptides in leaf vasculature
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19H03255
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
高橋 史憲 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (00462698)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ペプチド / 植物ホルモン / 環境応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでにABA合成酵素を制御する転写因子を同定することに成功している。そこで着目しているペプチド-受容体が、同定した転写因子を介してABA合成酵素の発現を制御していることを明らかにする目的で、転写因子のタンパク質修飾を高感度質量分析装置を用いて解析した。一般的にLRR-RLK型受容体は、リン酸化修飾を介した細胞内シグナル伝達経路を制御することが知られている。そこで我々も、タンパク質のリン酸化修飾に特化した質量分析解析を行った。その結果、着目している転写因子は、コントロール条件で複数のリン酸化修飾を受けていること、またストレス条件においても、複数のリン酸化修飾を受けることを明らかにした。特にストレス依存的にリン酸化修飾を受けるアミノ酸部位を同定することに成功した。この結果は、転写因子がストレス依存的にリン酸化修飾を受け、活性型となり、標的遺伝子であるABA合成酵素の発現を制御することを示唆する。さらに、受容体遺伝子破壊変異体に転写因子を過剰発現させた植物を作出し、植物体レベルでの表現型解析を行った。野生型植物に転写因子を過剰発現させると、葉の形態形成に異常を起こすことが報告されている。一方、本研究課題で作成した受容体変異体を遺伝背景に転写因子を過剰発現させた植物では、そのような形態形成の異常が回復することを明らかとした。このことは、受容体の下流で標的転写因子が機能していることを示す。次に、受容体の下流でリン酸化シグナルを制御するリン酸化タンパク質の同定を試みた。高分解質量分析装置での解析を行う前に、予備実験として、ゲル内リン酸化活性反応法を用いてスクリーニングを行った。その結果、複数の代表的なリン酸化タンパク質の活性が、受容体変異体では低下していることを明らかにした。この結果は、受容体-リン酸化タンパク質-転写因子シグナルが機能していることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高分解質量分析装置を用いた解析から、標的転写因子が通常条件、およびストレス条件でリン酸化修飾を受けることを明らかにしたことは、この標的転写因子が、リン酸化シグナル伝達経路に関わることを示す有力な結果を得ることができた。さらにストレス依存的にリン酸化修飾を受けるアミノ酸部位を複数カ所同定したことは、この転写因子がストレス依存的なリン酸化シグナル伝達経路で機能していることを示す重要な結果を得たことを示す。特にこの転写因子は、ストレス依存的にABA合成酵素の発現を制御することから、リン酸化修飾を介した転写活性化能の上昇との関連性が考えられる。次年度は、リン酸化修飾を受ける各アミノ酸部位のどこが一番転写活性化に重要な部位であるかを詳細に検討する。また本年度は、受容体変異体の遺伝背景を持つ転写因子過剰発現植物体が、野生型背景での転写因子過剰発現植物体と比較して、植物個体レベルでの表現型が異なったことは、これまで解析している受容体の下流で、この転写因子が機能していることを示す結果が得られたことを意味するため、非常に大きい成果となった。葉の表現型異常につながるリン酸化修飾部位、および下流遺伝子発現を制御することにつながるリン酸化修飾部位が、本年度同定したアミノ酸部位と一致することになれば、標的転写因子の細胞内での機能を詳細に明らかにすることにつながるため、次年度以降引き続き、解析を進めていく。さらに受容体変異体を用いたゲル内リン酸化活性反応法を用いて、候補となるリン酸化タンパク質群をスクリーニングすることができたことも、今後の研究において重要となる結果である。着目している受容体-転写因子が、リン酸化シグナル伝達経路に当てはまること、またそれらをつなぐリン酸化タンパク質が存在することを示す結果を得たことは、これらが1本のシグナル伝達経路で機能することを示唆する重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
リン酸化修飾が影響を与える転写活性化能、および表現型回復の相互関連に関して、解析を進める。標的アミノ酸部位を酸性アミノ酸やその他のアミノ酸に置換変異を導入し、プロトプラストや形質転換植物を作製し、アミノ酸修飾が制御する生理応答を詳細に解析する。また受容体変異体を遺伝背景にもつ転写因子過剰発現植物を対象に、高分解質量分析装置を用いて、アミノ酸修飾解析を行うことで、受容体と転写因子内のリン酸化修飾の関係性も明らかにすることができるため、引き続きこれらの解析を行う。さらにゲル内リン酸化活性反応法を用いて、受容体の下流で機能するリン酸化タンパク質群の候補を絞った結果をより詳細に解析する目的で、受容体変異体を対象に、網羅的なリン酸化プロテオーム解析を行い、ペプチド-受容体の直接的な下流リン酸タンパク質群の同定を行う。また、受容体の変異体だけでなく、ABA合成欠損変異体を併せて用いることで、ポジティブフィードバック作用があるABA応答の影響を受けずに、目的の水分ストレス応答だけに焦点を絞って解析を行うことも計画している。絞り込みには組織別オミックス発現情報も活用する予定である。また、網羅的リン酸化プロテオーム解析を行うことで、現在着目している標的候補転写因子だけでなく、新たな候補転写因子を同定できることも見込んでいる。受容体の下流に広がる大きなリン酸化シグナル伝達リレーの一端を明らかにすることができれば、非常に大きな成果になると考えている。また、受容体やリン酸化タンパク質、標的転写因子の変異体を用いて、受容体-リン酸化タンパク質-転写因子シグナルが制御する下流因子群を、次世代シーケンサーを使って大規模に解析する。着目している水分ストレスシグナルの制御は新規性が高いことと、次世代シーケンスデータを使う利点を生かし、水分ストレスに関わるsORF遺伝子群などへの制御にも着目する。
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Research Products
(8 results)