2020 Fiscal Year Annual Research Report
種間交雑回避機構として体色と色覚がトンボ類の種分化に及ぼす効果
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19H03287
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
林 文男 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (40212154)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 交尾行動 / 形質置換 / 種分化 / 種内変異 / 種間交雑 |
Outline of Annual Research Achievements |
昼行性のトンボ類は,よく発達した複眼を用い,色彩などから同種認知を行い交配する.そのため,トンボ類の体色,翅の模様,体型などが多様になっていると考えられる.しかし,野外において稀に雑種個体が見つかることがあり,また,近縁種間の形態的分類が困難なグループも知られている.トンボ類の翅の模様などの遺伝子発現について,RNAi法を用いた手法が有効かどうかについて,エレクトロポレーションを利用した方法を試みた.また,トンボ類の体色と色素合成の分子機構に関するこれまでの知見を集め,総説として発表した.トンボ類では,単純な色素による体色や翅色の発現だけでなく,構造色や紫外線の反射機構を有することがある.そこで,そうした紫外線反射機構に関する総説を行い,論文として発表した.一方,野外において種間交雑と考えられる雑種第一世代が見つかることがある.形態的には親種の中間型を示すが,確実ではない.そこでミトコンドリアDNA(メス親由来)と核DNA(両親由来)の解析を行うことによって野外における種間交雑の判定と種間交雑の起こりやすさを定量することができる.この点についても,今年度はタイリクアキアカネについて検証を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
種間交雑の野外での実態を明らかにした研究を行い,その結果をまとめた論文を3編(英語論文1編と和文論文2編)をこれまでに出版することができた.さらに,飼育下で人工的に種間交雑を行わせ,その子(F1)の形態的,遺伝的解析を行い,雑種ではどのような形態的,遺伝的特徴があるのかを明らかにし,英文論文を1編出版した.翅色や体色に関する遺伝的基盤の解明に向けて,エレクトロポレーションを利用したRNAi法の試みを行うとともに,これまでの知見を整理し,総説を発表した.2019年度には,野外調査に関して,中国雲南省における中国の研究者との共同研究を行った.しかし,2020年度からは新型コロナ禍のために野外調査を行うことができず,日本産カワトンボ属の大規模な遺伝的解析と野外での種間交雑実験は行うことはできなかった.コロナ禍がおさまるとともに,こうした野外調査を実施したいと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
日本産カワトンボ属(Mnais属)2種の集団において,雑種崩壊,形質置換,種分化完了の3段階の地理的分布に関する研究を今後精力的に進める必要がある.この2種については,地域ごとに雑種崩壊が生じていると思われる集団,形質置換によって2種間で交雑が防止されていると考えられる集団,種分化が完了しており複雑な翅多型が2種間で同所的に共通して見られる集団があることがわかっ ている.カワトンボ属2種は5月から6月にか けて短期間で成虫の繁殖期が終わるため,2019年度の採択初年度にはそれを本格的に実施するには時間的制約があった.また,新型コロナ禍によって,2020年度から野外調査が行えない状況が続いている.今後その影響がなくなった時点から,速やかに,そうした地域において人為的な種間交雑を行い,その子(F1)がどのような運命になるかを明らかにする必要がある.
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