2019 Fiscal Year Annual Research Report
標高上下間での植物の遺伝的分化と、送粉昆虫が分化の維持に果たす役割
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19H03300
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
市野 隆雄 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20176291)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 標高種分化 / 草本植物 / 生態型 / 送粉昆虫 / 遺伝分化 / MIG-seq解析 / 適応進化 / 生物間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、キツリフネ、ウツボグサ、オドリコソウの3種について重点的に研究をおこなった。 1.まず、キツリフネについては、長野県安曇野市の調査地において、開花時期の早い早咲き個体(6月~7月)と遅咲き個体(7月下旬~9月)の2型が認められることを確認した。早咲き個体は高標高に、遅咲き個体は低標高に、それぞれ分布する傾向が認められた。境界となる標高域では両者が同所的に分布している場所があった。この開花時期の違う2型が、遺伝的分化を伴うものかどうかを確認するため、DNAを抽出してMIG-seq解析をおこなった。その結果、まず、基本的には距離による隔離があり、地理的に近い集団同士は遺伝的にも近縁であった。しかしその一方で、地理的な距離が近いにもかかわらず遺伝的な差が大きい集団の組み合わせが一部確認された。安曇野市では花期の分化に対応した遺伝構造を確認した。 2.次に、ウツボグサについては、長野県3山域(乗鞍、美ヶ原、御岳山)の13集団について、各集団を訪れる送粉者の口吻長が、その集団の花筒長に影響することを明らかにした。一方、核DNAのITS領域、6座のマイクロサテライトマーカーを用いた解析をおこなったが集団遺伝構造の解像度は低かった。 3.最後に、オドリコソウについては、高標高の集団は送粉昆虫が大型であり、また花サイズも大型であることが明らかになった。この現象は乗鞍と美ヶ原の2つの山域にまたがって確認された。既存の10座のマイクロサテライトマーカーの有用性を予備的に検討した結果、十分な遺伝的多型が得られた。 これら今年度の結果は、草本植物の花形質が、送粉者相の異なる集団間で局所的に適応進化していることを示している。また、一部の種では集団間での遺伝的分化も発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.キツリフネについては、長野県安曇野市で開花期の調査をおこなうとともに、MIG-seq解析用のサンプルを長野県37地点と北海道5地点において採取した。42地点のうち早咲き型・遅咲き型の表現型を区別してサンプリングしたのは長野県安曇野市の3地点のみである。これらのサンプルを用いてMIG-seq解析が順調に進展している。 2.ウツボグサについては、集団間での送粉者相の違いが花サイズの変異に寄与するかを、3山域(乗鞍、美ヶ原、御岳)の13集団における調査結果をもとに一般化線形モデル(GLM)を用いて検証した。一方、核DNAのITS領域を用いた系統解析やSSRマーカーを用いたストラクチャー解析も順調におこなうことができた。 3.オドリコソウについては、乗鞍と美ヶ原の2山域で花形質と送粉者形質を計測した。また、オドリコソウの集団遺伝構造を明らかにするために、原種のタイリクオドリコソウにおいて開発された10座のマイクロサテライトマーカーをオドリコソウへの解析に適用することを検討した。少数サンプルにおける予備実験の結果として、十分な遺伝的多型が得られたため、サンプル数を増やした解析を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
1.キツリフネの集団遺伝構造には、距離による隔離の傾向が認められた。その一方で、早咲き遅咲きの集団間変異はそれぞれの山域で独立に生じていることが予測される。そこで、今後はMIG-seq解析を進めるとともに、キツリフネが側所的に遺伝分化している安曇野市を中心に野外での進化生態学的研究を進める。早咲き個体と遅咲き個体の両者の遺伝的な交流を妨げる主な要因は開花時期の違いだと考えられるが、開花時期には重なりがあるため(8月頃)、開花時期の違いだけでは生殖隔離を説明できない。そこで、まず交配実験を行い、種子ができるかどうか(交配後隔離)を確かめる。加えて、安曇野市周辺の9集団でキツリフネの開花時期を調べ、開花時期の地理的変異の実態を明らかにする。 2.ある集団におけるウツボグサの花筒長は、その集団を訪れる送粉昆虫の口吻長と対応していることが確認された。しかし、集団遺伝構造については従来の方法では検出できなかった。そこで、MIG-seq法によるゲノムワイドSNPs探索を行い、ウツボグサの花筒長の変異と遺伝構造との関係を検証する。まず日本各地から解析用の葉のサンプルを採取する。 3.オドリコソウについては、10座のマイクロサテライトマーカーによる遺伝解析が可能である確証を得たため、野外調査でデータを得た2山域の集団の遺伝構造を解析していく。標高傾度に沿った送粉昆虫の体サイズの変異に伴い、オドリコソウの花サイズは標高の上下間で全く異なっている。この花サイズの違いが遺伝的分化を伴っているのかを検証する予定である。
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Research Products
(4 results)