2021 Fiscal Year Annual Research Report
生物群集が創発する寄生者制御:宿主多様性による感染動態安定化機構の理論と実証
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19H03304
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 拓哉 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (30456743)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 勝敏 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00324955)
瀧本 岳 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90453852)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 寄生者 / 感染動態 / 増幅効果 / 希釈効果 / ハリガネムシ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ハリガネムシ類の感染系をモデルとして、「感染動態の安定性は、希釈効果と増幅効果のいずれかでなく、両者が同時に働くことによって規定される」という仮説を理論と実証の両面から検証することを目的としている。 この課題について、前年度までに、ハリガネムシ類の感染動態において、中間宿主である水生昆虫の羽化フェノロジーの多様性が高く、河川から森林へのハリガネムシの運搬期間が長期化していること、一方終宿主種間の出現フェノロジーの同調性が高いことが明らかになってきていた。そこで本年度は特に、この中間宿主と終宿主それぞれの群集レベルのフェノロジー一致度によって、ハリガネムシ類の伝播可能性がどの程度制御されているのかを定量的に評価した。その結果、2014年の雨龍研究林の調査サイトでは、水生昆虫の羽化に伴って森林に運搬されたハリガネムシシストの約50%が感染率の高い終宿主種群と季節的に、感染機会をもてていないことが明らかになった。また、この実証研究をもとに、中間宿主と終宿主それぞれのハリガネムシ感染率に対する種多様性効果を考慮する数理モデルを構築し、上記の群集フェノロジー一致度が感染動態を制御しうる条件について解析を進めた。さらに、上記の実証研究結果の普遍性を多地点で検証するために、中間宿主やそれにシストとして寄生しているハリガネムシ類の定量メタバーコーディングの手法開発を進めた。ベクター媒介感染症の数理モデルにおいて、宿主の多様性だけでなく、ベクターの多様性を考慮する新たな数理モデルを構築して論文発表をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
膨大な野外サンプルを分析し、複雑な生活史を有する寄生生物ハリガネムシ類の種多様性効果に関する稀有な実証データを蓄積するだけでなく、そこから複数の宿主の群集レベルのフェノロジー一致度が感染動態を制御する可能性を世界に先駆けて発表する実証研究を展開しつつある。さらに、それを数理モデルに組み込み、結果の一般性の検証や理論的枠組みを構築しつつある。それだけでなく、ハリガネムシのシストも含む膨大なサンプルをメタバーコーディングによって分析する技術開発も同時に進めることで、多地点での結果の一般性の評価にも進みつつある。 一方で、新型コロナ禍のために、予定していた大規模野外操作実験については、予備的に進めることにとどまっており、その点でおおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
事業の最終年度として、膨大な野外サンプルの分析を当初計画通りに継続して進めるとともに、アウトプットにより重きをおいて研究を進める予定である。 群集フェノロジーの一致度によるハリガネムシ感染動態の制御の可能性についての実証データはすでに取りまとめているので、それに基づいた数理モデル解析を進めることで、感染動態における複数の宿主の種多様性に関して生物の季節性を考慮した新たな一般性の高い理論・実証統合型の論文発表を予定している。 さらに、寄生者・宿主の網羅的メタバーコーディング手法についても取りまとめ、メソドロジーの論文を発表するとともに、その技術を膨大なサンプル分析に適用する予定である。
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