2019 Fiscal Year Annual Research Report
疫学パラメータの個体間差異が感染症拡大と生態系全体へ及ぼす影響の解明
Project/Area Number |
19H03309
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
三木 健 龍谷大学, 理工学部, 教授 (00815508)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鏡味 麻衣子 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (20449250)
松井 一彰 近畿大学, 理工学部, 教授 (40435532)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 水域生態系 / 感染症 / スーパースプレッダー / 菌類 / 数理モデル / 基本再生産数 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究遂行の初年度にあたり、分担者と代表者で協力し、宿主植物プランクトンと寄生者ツボカビの継代培養環境の整備をまず進めた。次に倒立顕微鏡(オリンパス製 倒立型リサーチ顕微鏡IX83)によるタイムラプス撮影環境を整えた。具体的には観測視野に宿主細胞がひとつだけ入る条件・垂直方向の細胞の移動に対してピントがずれていかないような撮影条件・培養条件の検討を行った。 そしてそれらの培養細胞と顕微鏡システムを用いて、3組の宿主プランクトン種-寄生者ツボカビ種の組み合わせで多重感染数の定量を行った。このように得られた多重感染数のデータに関して、多重感染数の頻度分布に対する統計解析を行い、宿主プランクトン細胞と寄生者ツボカビ遊走子との相互作用がランダムな衝突によるかどうかの検定を進めた。 その結果3組ともで多重感染数の頻度分布はランダムな衝突から生じるPoisson分布では説明できないことがわかった。この結果に基づき、宿主プランクトン細胞と寄生者ツボカビ遊走子との相互作用がランダムではなく密度依存であることを仮定した、多重感染過程に関する数理モデルを構築した。この数理モデルの平衡状態を数学的に導出することによりPoisson分布に代わるExponentially-Weighted Poissson Distribution(EWPD)の一種を得ることに成功した。このEWPDは多重感染数の頻度分布データをポワソン分布よりもよりよく説明することが分かった。これらの結果については、日本生態学会および龍谷大学新春技術講演会にて発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書の段階において1年目および2年目は「疫学パラメータの個体間差異の定量化」を行うことが予定されていた。現在までのところで個体間差異のある疫学パラメータのうち、疫学の流行の可否やその程度を決める基本再生産数の決定要因として非常に重要な「多重感染数」についての定量化に成功した。さらには元々2年目に実行予定であった「植物プランクトン・ツボカビ個体群動態モデルの構築」に関してもそのプロトタイプの構築が完了し、多重感染数分布についての実験データをよく説明できる状態となった。したがって、計画全体の中で1年目の進捗は予定通りであったといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
「疫学パラメータの個体間差異の定量化」に関しては、多重感染数の定量においては比較的サイズが大きく細かい解像度を要しない胞子嚢の計数に既に成功したが、感染期間やバーストサイズ等の他の疫学パラメータの定量化に関しては、顕微鏡での撮影において十分な解像度が得られていない。そこで今後については顕微鏡のタイムラプス撮影と深度合成条件の更なる最適化が必要であり、本年度に進める予定である。また「植物プランクトン・ツボカビ個体群動態モデルの構築」に関しては、一年目に開発した多重感染過程のプロトタイプモデルについて、多重感染数分布データをよりよく説明できるように改良を行うとともに、多重感染、宿主プランクトン細胞の出生と死亡、ツボカビの出生と死亡を組み合わせた個体群動態モデルの構築を行う予定である。
|