2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19H03319
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
安部 健太郎 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (70462653)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 記憶形成 / 転写因子 / 可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
長期記憶の形成には新奇な遺伝子発現が関与することは知られているが、その詳細は明らかでない。転写因子は遺伝子発現を直接制御する因子であり、記憶形成にも関わることが知られているが、記憶形成時における脳内の転写因子の活性変化については知られていない部分が多い。本研究では、研究代表者の独自開発技術を用いて、マウス(Mus musculus)の記憶学習形成過程においてin vivo脳内で多数の転写因子活性を定量計測する。記憶形成過程における多数の転写因子活性の活性を表す「転写因子活性プロファイル」を経時的に取得し比較することにより、長期記憶形成に関与する転写因子を明らかにするとともに、それらの転写因子の遺伝子転写活性の活性が増減するタイムコースを明らかにする。反復して提示された刺激に対し長期記憶を形成する学習過程をモデルに、各転写因子活性の活性変化タイムコース解析、数理モデル化、活性シミュレーションにより、記憶形成を最も促進する刺激提示法を明らかにする。本研究手法により、学習に関わる脳内内部の“可塑性状態”を計測しながら、適切な刺激を提示することにより、記憶学習の分子・神経メカニズムを明らかにするとともに、動物における記憶獲得の効率化を図る。これまでにマウスの記憶形成実験系を確立し、脳内転写因子の定量取得を進めている。今後、マウスの社会記憶形成過程において約50種類の転写因子の活性を定量的に計測し、転写因子活性プロファイルを作成する。プロファイル比較より記憶形成とともに活性が変化する転写因子を同定し、その転写因子に関してその活性を制御する操作を行い、記憶形成に及ぼす影響を解析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は近年、生体組織内細胞の内在転写因子活性を定量評価・経時評価することを可能にする、自己補正機能付のレポーターウイルスの開発と、それを利用した転写因子活性プロファイリング技術の確立に成功している。この技術により、生体内細胞における多数の内在転写因子の活性を効率的に定量計測し、数値化することが可能になった。また、脳内の特定の細胞種に上記レポーターウイルスを感染させる効率的な動物個体の作成法を確立している。これら技術を使用することで、マウス成体脳内の内在転写因子活性を測定し、それを“脳内転写因子活性プロファイル”として表し、それが環境刺激や病態によりどのように変化するのかを明らかにすることができる。本年度は、マウスにおいて記憶形成の実験系を確立した。社会学習記憶をモデルにすることにより刺激提示回数と記憶の持続性に関する基礎的なデータを取得した。確立した学習系を基に脳内転写因子活性を定量するタイムコースを決定し、転写因子活性レポーター発現マウスを使用することにより脳内転写因子活性の定量を始め、数種の転写因子に関して活性の変化を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、本年度に引き続き転写因子活性レポーターを脳内に発現するマウスを作成、育成し、マウスの社会記憶形成過程において約50種類の転写因子の活性を定量的に計測する。得られたデータをもとに、転写因子活性プロファイルを作成、記憶形成とともに活性が変化する転写因子を同定する。同定した転写因子に関してその活性を制御する操作を行い、記憶形成に及ぼす影響を解析する。また、反復して提示された刺激に対し長期記憶を形成する過程をモデルにし、長期記憶獲得条件と短期記憶獲得条件における各転写因子の活性の違いを明らかにする。
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