2019 Fiscal Year Annual Research Report
経験による大脳抑制性ニューロンの形態形成と機能分化メカニズムの解析
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19H03322
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
杉山 清佳 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (10360570)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高田 美絵子 (森島美絵子) 生理学研究所, 基盤神経科学研究領域, 助教 (30435531)
奥田 修二郎 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (00512310)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 抑制性ニューロン / 臨界期 / 細胞骨格因子 / 樹状突起形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
「臨界期」は、子どもの経験に応じて脳の機能を集中的に形成する、神経回路の成長期である。臨界期に作られた回路は、生涯、個性として保たれる傾向がある。そのため、臨界期に異常があると、回路の誤配線が修正されず、精神疾患の一因になることが示唆されている。申請者らは、生後の経験による大脳皮質抑制性ニューロン(PV細胞)の成熟が、臨界期の活性化に必要であることを報告してきた。抑制性ニューロンは形態や機能により十種類以上の細胞種に分類され、特性に合わせて異なる情報伝達の分岐点として働く。すなわち、個々の経験によって抑制性ニューロンの分化に偏りが生じると、臨界期の回路形成や、後の情報処理に影響を与えると推測される。一方で、抑制性ニューロンの多様な細胞種のすべてが、胎生期に運命を決定されているのか、個々の運命を明確に規定する鍵遺伝子は見つかっておらず、疑問が呈され始めている。 本研究において申請者らは、生後の視覚経験により発現する新規のアクチン重合因子が、PV細胞の形態分化に必須であることを明らかにした。この因子が欠損すると、PV細胞の形態特性(多極性樹状突起)が、他の抑制性ニューロンの形態特性(双極性樹状突起)に転換される。逆に、生後にこの因子を強制発現させると、双極性細胞がPV細胞様の多極性形態へと変化する。新規アクチン重合因子は、PV細胞の樹状突起の起点に蓄積し、アクチン重合および突起形成の起爆剤となることが考えられた。さらに、この因子の欠損マウスでは視覚の臨界期が誘導されず、空間解像度が異常に向上することが分かった。これらの結果は、抑制性ニューロンの分化が神経活動によって決定されること、さらにをPV細胞の特性の転換により視覚の情報処理が変化することを示唆する、世界的にも初めての成果と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究の期間中、電気生理学実験を行っている過程で、以前から使用していた脳活動計測装置に不測の故障が生じたため、当装置の調整が必要となった。研究の遂行上、当機器を用いて視覚応答を記録することが目的の達成に不可欠であったため、装置を調整しつつ、従来よりも時間をかけて記録を取り終えた。記録したデータの解析から、当該研究テーマの仮説をサポートする期待通りの内容が得られたことから、進捗状況の区分(2)を選択している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、新規アクチン重合因子が特定の抑制性ニューロン(PV細胞)の多極性樹状突起の形態に必須であることを見出している。抑制性ニューロンの細胞種の分類には、樹状突起だけでなく軸索の形態特性も重要である。予備実験から、アクチン重合因子の欠損PV細胞では、軸索にも形態変化があることが推測されている。トレース解析を行い、PV細胞の軸索投射先が、他の抑制性ニューロンの形態に転換するのかを明らかにする。 抑制性ニューロンの樹状突起と軸索の分布は、局所回路における入出力の範囲と、関わる情報伝達経路を定める上で重要である。一方で、形態と機能の特性がどのように影響しあうのか不明な点も多い。視覚野のPV細胞は、視床からの入力を受けて臨界期の回路形成を誘導する。一方、他の抑制性ニューロンは臨界期には関与せず、他の皮質領域からの入力を受けて、空間解像度を向上させることが報告されている。これまでの解析から、PV細胞の樹状突起形態が転換するアクチン重合因子の欠損マウスでは、視覚の臨界期が誘導されず、空間解像度が向上することが分かってきた。そこで、PV細胞の生理学的特性をwhole-cellパッチクランプ法により解析し、in vivoおよびin vitroから得られた結果を照らし合わせ、PV細胞の形態と機能の繋がりを検討する。
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Research Products
(6 results)