2020 Fiscal Year Annual Research Report
Analysis on molecular mechanisms for tissue-specific toxicity of heavy metals
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19H03375
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
原 俊太郎 昭和大学, 薬学部, 教授 (50222229)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脂質代謝 / 過酸化脂質 / 毒性発現 / 重金属 / 生理活性脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、重金属の毒性発現の標的として脂質分子に注目し、重金属等の毒性化学物質曝露に伴う脂質組成の変化及び生理活性脂質の産生を網羅的に解析するトキシコリピドミクスの手法を用い、重金属の組織特異的毒性発現機構を明らかにすることを目的としている。本年度は以下の点を明らかにした。 1) 神経毒性を示すメチル水銀に関する解析:メチル水銀投与後のマウス脳におけるトキシコリピドミクスをさらに展開し、ホスファチジルコリン(PC)のヒドロペルオキシド体(PC-OOH)に加え、ホスファチジルエタノールアミン(PE)のヒドロペルオキシド体(PE-OOH)やヒドロキシ体(PE-OH)が増加することを見出した。しかし、カルシウム非依存性ホスホリパーゼA2γ(iPLA2γ)のKOマウスにおいても、この増加は野生型マウスと同様であった。また、メチル水銀投与により増加するプロスタグランジンE2(PGE2)産生を担うmPGES-1欠損が、メチル水銀の神経毒性発現に影響を及ぼさないことも明らかにした。 2) 腎毒性を示す重金属に関する解析:ヒト腎近位尿細管細胞HK2において、長鎖アシルCoA合成酵素ACSL4をノックダウンすると、アラキドン酸等の高度不飽和脂肪酸含有リン脂質は減少したが、カドミウム、シスプラチン(白金を含む)、亜ヒ酸に対する感受性に変化はみられなかった。これらの重金属による腎近位尿細管での毒性発現への、膜リン脂質の過酸化の寄与は小さいと考えられた。また、iPLA2γのノックダウンは本細胞の生存率を著しく低下させることもわかった。 3) 膀胱毒性・肺毒性を示す化学物質に関する解析:重金属における解析の前に、昨年度に引き続き膀胱毒性を示すシクロホスファミド、新たに肺毒性を示すパラコートを用いた解析を進めた。その結果、パラコートの肺毒性がACSL4欠損により抑制されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神経毒性を示すメチル水銀に関する解析においては、マウス脳においてメチル水銀が幅広い膜リン脂質分子種の過酸化に関わることを見出すことができた。今後はさらに、メチル水銀の標的となりうるミトコンドリアに多く存在するカルジオリピンの過酸化体の解析を進める予定である。また、脂質過酸化物の除去に関与すると考えられるiPLA2γの欠損に加え、高度不飽和脂肪酸含有リン脂質量の維持に関与し、その欠損によりこれらのリン脂質量が多くの組織で低下するACSL4の欠損が、メチル水銀毒性に及ぼす影響についての解析を開始することができた。 腎毒性を示すカドミウムやシスプラチン等の重金属については、動物レベルでのトキシコリピドミクス解析は当初の予定通り進められなかったものの、HK2細胞をはじめ、様々な培養細胞を用いて細胞レベルでのトキシコリピドミクスを展開することができた。また、新たに亜ヒ酸に関する解析を開始することもできた。細胞レベルでの研究を個体レベルにどのように結びつけていくかが今後の課題である。 さらに、重金属の膀胱毒性・肺毒性を検討する前段階として、シクロホスファミドに関する解析をさらに展開するとともに、パラコートについては新たな知見を得ることができた。酸素の運搬を担う肺は脂質過酸化を受けやすい組織であり、肺毒性を示す物質の毒性発現については、脂質過酸化を介する細胞死であるフェロトーシスとの関連について解析を進める計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
神経毒性を示すメチル水銀に関しては、メチル水銀投与に伴う脳内カルジオリピンの過酸化体の変化の解析等、さらにトキシコリピドミクスを展開し、iPLA2γ KOマウスでメチル水銀神経毒性が軽減する機構について検討する。高度不飽和脂肪酸含有リン脂質量の維持に関わるACSL4や、炎症性生理活性脂質であるPGI2の産生酵素PGIS等の欠損が、メチル水銀を曝露した際の毒性発現や脂質プロファイル変化に及ぼす影響についても、詳細な解析を進める。さらに、マウス小脳由来顆粒細胞やSH-SY5Y細胞を用いた細胞レベルでの解析も継続する。 腎毒性を示すカドミウムやシスプラチンならびに、新たに解析を開始した亜ヒ酸に関しても、これまでに引き続き、細胞レベルでの解析を行うとともに、これらの重金属を投与した際に障害がみられる組織、障害がみられない組織の両者でトキシコリピドミクスを展開し、動物レベルでの解析も進める。これらの重金属の曝露時において、メチル水銀投与時に蓄積が観察された脂質過酸化物に注目した解析も行う。特に、肺毒性との関連が報告されるカドミウムにおいては、カドミウムによる毒性発現とフェロトーシスとの関係についても検討する。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Gene deletion of microsomal prostaglandin E synthase-1 suppresses chemically induced skin carcinogenesis2021
Author(s)
Sasaki, Y., Kuwata, H., Aida, E., Ochiai, T., Kamei, D., Nakatani, Y., Hara, S.
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Journal Title
Anticancer Research
Volume: 41
Pages: 1307-1314
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Coordinated action of microsomal prostaglandin E synthase-1 and prostacyclin synthase on contact hypersensitivity2021
Author(s)
Ochiai, T., Sasaki, Y., Kuwata, H., Nakatani, Y., Yokoyama, C., Hara, S.
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Journal Title
Biochemical and Biophysical Research Communications
Volume: 546
Pages: 124-129
DOI
Peer Reviewed
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