2020 Fiscal Year Annual Research Report
薬物組織移行・薬効・副作用の支配要因の変動を考慮したバーチャル臨床試験系の確立
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19H03392
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
杉山 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, 科技ハブ産連本部, 特別招聘研究員 (80090471)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
速水 謙 国立情報学研究所, 情報学プリンシプル研究系, 教授 (20251358)
吉門 崇 横浜薬科大学, 薬学部, 講師 (70535096)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 薬物動態 / 個人間変動 / モデリング&シミュレーション / 仮想臨床試験 / トランスポータ / アルブミン介在性輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
*In vitro 実験からin vivo での肝臓クリアランスを予測すための基本となる実験系について詳細に検討した。その結果、短時間肝細胞培養系(PHH)の方が単離サスペンジョン肝細胞(SHH)よりも安定した結果が得られることが分かった(発表論文1)。SHHにおいては37度の条件でインキュベートすると細胞表面のOATP1Bトランスポータのダウンレギュレーションが観察され、30分以上の取り込み結果の評価には適性でないことが示された (発表論文2) *アルブミン介在性の肝取り込み機構の関与を昨年までの研究で明らかにしていた。最近市場に出たpemafibrate(PMF)の肝クリアランスおよび血中濃度推移をin vitro実験に基づき構築すること試み、アルブミン介在性の輸送を支持する結果を得るとともに、それをPBPKモデリングに組み込む方法論を提示した(発表論文3)。 *肝臓における薬物の取り込みに関わるトランスポーターOATP1Bに対する内因性バイオマーカーを網羅的に調べたことにより良いバイオマーカーとして、コプロポルフィリンIのみならず、ビリルビンのグルクロン酸抱合体、胆汁酸の硫酸抱合体を確認できた。現在、これらをPBPKモデルに組み込むことにチャレンジしている(発表論文4) *肝臓への取り込み過程(NTCP)と胆汁排泄過程(BSEP)の組み合わせにより薬物および内因性化合物の経細胞輸送が生じる。この過程を定量的に評価できる実験系として、上記の胆汁酸トランスポータを一過的に発現させたdouble transfected MDCKII 細胞の系を作成し、さらには排泄側のトランスポータであるBSEPの発現量を変化させることに成功し、いわゆる拡張クリアランス概念が正しいことを実験的に証明することに繋がった。生理的発現量に近い実験系の作成により生体内でのこれらトランスポーターの役割をより定量的に解析する実験系を作製することができた(発表論文5)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画を以下に示すとともに、カッコ内に現在の進行状態を示す。 ほぼ予定どおりであるが、理研最後の年であり研究室を閉鎖する影響などを受けて、成果の論文執筆の完成度が70%程度である。 1)薬効・副作用標的組織内濃度と血中濃度の間の関係を数理モデル上で明確に記述するとともに、組織内濃度と適切なin vitro 実験により 得られた結果を土台にして、過去の実臨床データと合致するような数理モデル構築。 (スタチン、抗糖尿病薬、抗HCV薬を用いた解析を行い一部は論文発表まで行っている) 2)トランスポーター機能に連動して血中濃度が変動する血中・尿中の内在性化合物について、その定量的な関係性を明確にするために、コプ ロポルフィリン、胆汁酸の抱合体、ビリルビンのグルクロン酸抱合体などを用いて内在性化合物の挙動を記述するPBPKモデルの構築 (阻害剤としてリファンピシンを用いた臨床試験結果(内因性バイオマーカーの変動について)を説明するためのモデル解析を進め、一部は論文発表も行っている) 3)これまで確立したPBPKモデルの各パラメータに個人間変動および遺伝子多型の影響を組み込むことで、臨床データを再現できるか検証を行 うことで、VCSの妥当性を確認する。実際にはVCSを複数回実施することで、臨床データが再現できた確率から妥当性を判断する予定である。(糖尿病薬であるレパグリニドを用いて解析を進めている。本薬は臨床的にかなりの割合で、危険な低血糖の副作用が知られている。効果、副作用の程度に及ぼす薬物相互作用、遺伝子多型の影響についてVCSによる解析を行い、ほぼ終了した。現在、論文執筆にとりかかっている)
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目指すVCS のアウトプットは、ある患者集団における薬物の薬効・副作用の強度分布であり、体内動態のみに留まらず、具体的な事象の有無を予測することを目的とする。それらの標的として今後の研究は、創薬上、比較的汎用性が高く、現状の予測が困難と考えられる肝臓のC型肝炎ウイルスを標的とする薬剤の薬効、薬剤誘導性肝障害の発生に焦点をあてる。C型肝炎ウイルスを標的とする薬剤の多くは投与量に対して非線形動態を示し、投与量の設定が容易でない。そこで、薬物の臓器内濃度と薬効・副作用発現を関連付ける適切な数理モデルを本研究で構築し、それをVCS システムに組み込むことにより目的を達成できると確信している。
本研究の成果として、製薬会社が各自の創薬化合物のデータを用いて汎用性の高いシステムであるVCS を運用できる環境を提供することで、広く創薬業界で標準化される予測パッケージとして利用されることを期待しており、創薬産業への波及効果は大であると考えている。
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Research Products
(8 results)