2021 Fiscal Year Annual Research Report
Integrated functional analysis of the novel tumor suppressor genes OMD and PRELP, and their application to treatment of cancer
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19H03429
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
浜本 隆二 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (80321800)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | がん抑制遺伝子 / ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤 / PRELP |
Outline of Annual Research Achievements |
SLRP familyであるOMDとPRELPは、我々ががん抑制機能を保持していることを初めて発見した新規がん抑制遺伝子で、その機能や発現調節機構に関しては、依然不明な点が多い。そこで本研究においては、これら新規がん抑制遺伝子の機能を、トランスクリプトーム解析及びシステムバイオロジーの観点から統合的に解析し、さらに分子生物学や生化学的手法を用いてOMD及びPRELPの詳細な機能の解明を行うことを目的としている。2020年度においては、膀胱がんに関するこれらまでの成果をまとめてCancers誌に論文発表した(Cancers, 12, 3362 [2020])。一方、OMD遺伝子が配座される染色体上の領域9q22は、膀胱がんで高頻度に欠失が観察される領域であることが分かっているが、PRELP遺伝子に関しては発現抑制のメカニズムは分かっていなかった。そこで、2021年度はこれまで不明であったPRELP遺伝子の発現抑制機能を解明することを目的に研究を行った。まず我々が保持しているヒストン修飾酵素阻害剤を複数の膀胱がん細胞株に処理をして、PRELP遺伝子の発現を定量的real-time PCRを用いて解析を行ったところ、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)を処理することで、PRELPの発現が上昇することを突き止めた。また、ChIP-qPCR解析により、PRELP遺伝子プロモーター領域のヒストンH2Bのリジン残基5のアセチル化が、PRELP発現抑制解除のマーカーであることを見出した。これらの結果は、HDACiがPRELPの機能を部分的に制御し、膀胱がんの発生や進行を抑制するメカニズムを示唆している、さらに、HDACiの一部はすでに臨床応用されているが、本研究の結果は、HDACiを用いた治療戦略のさらなる検討のためのメカニズム的な基礎を提供するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
OMDとPRELPは、SLRP familyに属する分泌型細胞外マトリックスタンパク質である。これまでの研究で、OMDとPRELPが膀胱上皮の傘細胞に特異的に発現しており、早期からのすべての膀胱がんや様々な上皮性癌でその発現レベルが劇的に低下していることを発見した。さらに膀胱がん細胞株を用いた遺伝子発現プロファイリングなどのin vitro研究では、OMDまたはPRELPの適用により、TGF-βおよびEGF経路が阻害され、上皮間葉転換(EMT)が逆転し、細胞-細胞間の接着が活性化され、様々な発がん経路が阻害されることで、がんの進行が抑制されることを明らかにした。さらに、OMDを膀胱がん細胞に過剰発現させると、マウス異種移植試験において、アンカー依存性の成長と腫瘍形成を強く阻害することを突き止めた。他方、膀胱上皮では、OMDおよびPRELP遺伝子のノックアウトマウスは、部分的なEMTと傘細胞のタイトジャンクションの消失を引き起こし、傘細胞層が自然に破壊されて膀胱がんin situ様の構造が形成されることを発見した。また、OMDノックアウトマウスの膀胱の発現プロファイリングをオントロジー解析したところ、ヒトの膀胱がんから得られた発現プロファイリングと非常に高い類似性を示した。これらの結果から、OMDとPRELPは、EMTを制御することにより、内因性のがん発症・進行抑制因子であることがわかり、膀胱がんの治療に応用できる可能性がある。これらの成果をまとめて2020年度に国際誌に論文発表した。また、ヒストンH2BK5のアセチル化が、PRELP発現抑制解除のマーカーであることを突き止め、HDACiがPRELPの機能を部分的に制御し、膀胱がんの発生や進行を抑制するメカニズムを明らかにした。これらの結果から登場の計画以上に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、研究計画上にある臨床応用を志向した研究に関して、主に3つの戦略を考えている。一番目としては、我々はリコンビナントPRELPを既に取得しているため、タンパク質性医薬品の創製を志向した、リコンビナントPRELPを用いた腫瘍抑制効果に焦点を当てた研究を行っていく。二番目としては、2021年度の成果からヒストン脱アセチル化酵素が、PRELPの発現を上昇させることが分かった。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は既に臨床応用されている薬剤があるため、他の抗がん剤との併用療法など、新しい膀胱がんの治療戦略としてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を活用する方向性に関しても検討を行う。三番目としては、これまでの我々の研究成果より、PRELPは膀胱がんのみならず様々ながんで発現が抑制されていることが分かっている。これまで行ったpreliminaryな結果では卵巣がんにおいても、PRELPは発現が抑制されているとともに、強制発現することで卵巣がん細胞の増殖が抑制されるという結果が得られているため、卵巣がんを中心に膀胱がん以外のがん種に関しても、PRELPを標的とした新しい治療戦略を検討していく予定である。特にPRELPは多くのがん種でその発現が低下しているという事実から判断して、細胞のがん化の過程で共通な重要なステップである可能性もあり、本研究で確立されたPRELPを標的とした新規治療戦略は、様々ながん種に応用できる可能性があると考えている。
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