2019 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of the Serratia genome diversity and emerging process of highly resistant lineage and identification of highly virulent lineages
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19H03472
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
林 哲也 九州大学, 医学研究院, 教授 (10173014)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | セラチアマルセッセンス / セラチア属 / ゲノム解析 / コアゲノム / パンゲノム / CRISPR-Cas / プラスミド / 薬剤耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
セラチアは代表的な日和見感染菌であり、院内感染や高度多剤耐性株の出現が問題となっている。本研究では、環境に広く分布し、多様な菌株集団と考えられる本菌において大規模比較ゲノム解析を行い、(1)系統・亜系統の同定、その遺伝的距離の解明、各系統特異的遺伝子群の同定、(2)プラスミドの多様性と耐性遺伝子集積の実態と集積メカニズムの解明、各耐性プラスミドの伝播能の解析と高度多剤耐性株出現におけるプラスミドの役割の解明、(3)臨床株集積系統の同定、他系統との潜在的病原性の違いの解析による高病原性系統と責任遺伝子の同定を目指している。本年度の解析結果は以下の通りである。 (1)データベースから菌株情報が明らかな海外株のゲノム情報を収集し、既に収集済みのセラチア・マルセッセンスとその近縁菌株のゲノム情報に加え、Roaryによるコアゲノム・パンゲノム解析を行った。コア遺伝子配列を用いて高精度系統解析を行い、主な系統・亜系統を同定するとともに、総当たりANI解析を行い、系統・亜系統間の遺伝的距離を明らかにした。また、各系統・亜系統のゲノムサイズとGC含量の違い、各系統・亜系統と提唱されているセラチア・マルセッセンス近縁菌種の関係を明らかにした。さらに、コア遺伝子の比較から各系統・亜系統に特異的かつ普遍的に存在する遺伝子群を同定したほか、各系統・亜系統に分布するCas-CRISPR系の違いと保存性、CRISPRアレイのレパトリサイズの違いを明らかにした。 (2) PlasmidFinderを用いて、各株の保有するプラスミドの検索を行ったが、十分な感度が得られないことが判明したため、プラスミドの抽出法を検討した(現在検討中)。また、主な抗菌薬に対する感受性を微量液体希釈法で測定した。 (3)上記の系統・亜系統の分離ソースを検討し、臨床由来株が集積している亜系統を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた(1)データベースから菌株情報が明らかな海外株のゲノム情報を収集、(2)既に収集済みのセラチア・マルセッセンスとその近縁菌株のゲノム情報に加えたコアゲノム・パンゲノム解析、(3)コア遺伝子配列を用いて高精度系統解析による主な系統・亜系統を同定、(4)総当たりANI解析による系統・亜系統間の遺伝的距離の解明、(5)コア遺伝子の比較から各系統・亜系統に特異的かつ普遍的に存在する遺伝子群を同定できた。これに加えて、当初の予定にはなかった各系統・亜系統のゲノムサイズとGC含量の違い、各系統・亜系統と提唱されているセラチア・マルセッセンス近縁菌種の関係、各系統・亜系統に分布するCRISPR-Cas系の違いと保存性、CRISPRアレイのレパトリサイズの違いを明らかにすることができた。 一方、PlasmidFinderを用いて、各株の保有するプラスミドの検索を行ったが、十分な感度が得られないことが判明したため、プラスミドの抽出法を検討した、現在検討中であるが、抽出したプラスミドを用いた解析に変更することとした。これに伴い、プラスミド保有株のロングリードシーケンシングによる各株の保有するプラスミドの配列を決定とカタログ化(plasmidome解析)は延期した。ただし、ゲノム情報からの耐性遺伝子の検出と主な抗菌薬に対する感受性測定は終了した。 また、系統・亜系統の分離ソースを検討による臨床由来株集積亜系統の同定は終了したが、病原性への関与が示唆されている形質の解析と定量化の開始は遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)初年度に得られたゲノム比較の成果については早期の論文発表を目指す。 (2)Plasmidome解析については、PlasmidFinderの感度が十分ではないため、プラスミド抽出による解析に変更する。これに伴い、当初予定よりもプラスミド保有株の同定に時間を要するが、研究室保有菌株の中からプラスミド保有株を同定し、ロングリードシケンシーケンシグにより、各株の保有するプラスミドの配列を決定し、カタログ化する。さらに、各プラスミド上の耐性遺伝子とその存在部位(インテグロンやトランスポゾン)を解析するとともに、主な抗菌薬に対する感受性測定の結果と比較し、耐性獲得におけるプラスミドの役割を解明する。耐性遺伝子検索で同定した各株の保有耐性遺伝子のうち、プラスミド上に存在しないものや感受性と耐性遺伝子の保有状況に矛盾が認められた場合には、染色体上の耐性遺伝子コード領域を精査するとともに、薬剤排泄ポンプなどの関与を検討する。 (3)耐性プラスミド上の接合伝達遺伝子群の有無とそのセラチア内での分布を解析し、この情報を基に接合伝達実験を行い、異なるセラチア系統や他の腸内細菌科細菌への各耐性プラスミドの伝播能を明らかにする。 (4)研究室保有株の中から、各系統・亜系統の代表株を選抜し、病原性への関与が示唆されている形質を解析し、定量化する。この結果を参考に、各系統の代表株をさらに選抜し、カイコとマウスの感染モデルを用いて、臨床株集積系統、環境株集積系統、それ以外の系統の病原性の違いを解析する。さらに、同定した臨床株集積系統特異的遺伝子群の中から、文献・配列情報などを基に病原性関連遺伝子を選定し、臨床株集積系統の代表株において遺伝子破壊株と各遺伝子のプラスミドを用いた相補株を作成し、カイコおよびマウス感染モデルを用いて、選定した病原性関連遺伝子の病原性への関与を解析する。
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