2020 Fiscal Year Annual Research Report
全胸腺ストロマ細胞の分子理解にもとづくT細胞分化機構の解明
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19H03485
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新田 剛 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (30373343)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 胸腺 / T細胞 / 線維芽細胞 / TCR / 自己免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、胸腺微小環境を構成する全ストロマ細胞サブセットを網羅的に同定し、その機能を理解することをめざす。特に、線維芽細胞サブセットが髄質微小環境の空間配置を司るオーガナイザーとして機能し、T細胞レパトア選択と自己寛容に重要な役割を果たすという仮説を検証する。 ①マウスの胸腺から胸腺上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、周皮細胞を単離し、RNA-seq解析を行った。また、独自の細胞分画調製法を用いて、皮膜と髄質の線維芽細胞サブセットを単離し、それぞれの特徴を明らかにした。髄質線維芽細胞(mFb)は、リンパ節の細網線維芽細胞と似ているものの、ケモカインや細胞外プロテアーゼを含む独自の遺伝子発現パターンを有することが明らかとなった。 ②mFbに高発現するLymphotoxin beta receptor (LTbR) についてfloxマウスを作製し、Twist2Cre系統との交配によって線維芽細胞特異的CKOマウスを作製した。LTbR CKOマウスでは、mFb数が減少し、機能遺伝子の発現が著しく低下した。また、LTbR CKOマウスでは、mFbに特有の遺伝子の発現が低下し、それらの遺伝子産物に対する自己抗体が血液中に検出され、複数の臓器に自己免疫病態がみられた。すなわち、LTbRによってmFbに発現誘導されるタンパク質は、中枢性免疫寛容を誘導するための自己抗原として機能することが示唆された。 ③線維芽細胞特異的LTbR欠損マウスの胸腺では、多くの自己抗原を発現する髄質上皮細胞(mTEC)の数が減少しており、これも中枢性免疫寛容の破綻の一因と考えられた。一方、mTECを欠損するマウスではmFbの数や遺伝子発現に変化がみられない。従って、mFbは細胞間相互作用においてmTECよりも上位に位置するストロマ細胞であり、mTECの分化や維持を制御することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の通り、胸腺を構成する全ストロマ細胞の単離に成功し、トランスクリプトーム解析データを得た。特に、髄質線維芽細胞(mFb)による自己寛容制御機構を明らかにし、成果を国際学術誌に発表した(Nitta et al, Nat Immunol 2020)。また、加齢に伴う胸腺の退縮の機構を明らかにするため、老齢マウスや妊娠マウスの胸腺ストロマ細胞を対象として解析を進めている。 mFbの機能については、ほぼ3年分の計画を遂行し、成果を発表することができた。mFb特異的Cre発現マウスの作製など、未だ計画通りには進んでいない項目もあり、今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
髄質線維芽細胞(mFb)の機能を解明するため、mFb特異的にCreを発現するマウス系統を樹立する。2種類の遺伝子の制御下で駆動するSplit Cre(binary Cre)システムを用いてマウス作製を進めている。mFbを任意のタイミングで消去するcell ablationマウスを作製し、mTECや他のストロマ細胞の分化と配置、T細胞分化への影響を精査し、髄質の微小環境を構築する細胞間相互作用の分子実体と生理的意義を解明する。 また、加齢に伴う胸腺の退縮の分子機序とT細胞分化への影響を理解するため、退縮期における全ストロマ細胞の数と遺伝子発現の解析を進めており、データを得つつある。胸腺の退縮の原因となる候補遺伝子を抽出し、TECや線維芽細胞などの異なるストロマ細胞系列のcKOマウスを作製する。必要に応じて加齢モデル実験(D-galactose-induced aging model)を行い、胸腺の退縮とT細胞免疫応答への影響を調べる。
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