2020 Fiscal Year Annual Research Report
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19H03491
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
久保 允人 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 教授 (40277281)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮内 浩典 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 副チームリーダー (50619856)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | インフルエンザ / ワクチン / 広域中和抗体 / B細胞 / T細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
インフルエンザによるパンデミック感染は人類の最大級の脅威とも言える。この流行を防ぐ最大の方法としてワクチンがある。本研究の目的は株が異なるウイルスや不連続抗原変異を起こしたウイルスに対しても有効性を持つワクチンの開発にある。様々なウイルスに対して広域中和抗体の有効性が示されているが、その産生に関わる免疫学的メカニズムについては明らかにされていない。 ヒトのコホート研究やマウスモデルの解析から、経鼻からの生ワクチンの肺への導入は、構造の異なるウイルス株のヘマグルチニン (HA)に対して中和活性を有することが分かっている。一方、季節性のワクチンとして使用している不活化ワクチンには広域反応性はなく、それ故生ワクチンは広域中和活性を持つIgG抗体を誘導する唯一のワクチンと言える。我々のマウスモデルの解析から、この広域中和活性を有するIgG抗体は、局所リンパ節に現れる濾胞性ヘルパーT(TFH)細胞と胚中心の形成に強く依存することが示された。そこで、本研究課題の学術的「問い」は、「生ワクチンが何故、不活化ワクチンとは異なる抗原決定基を生み出すことができ、そのメカニズムがどのように広域中和抗体の産生に影響するのか」とする。これに対する一つの答えは、「感染によってウイルスが増幅した時だけ広域中和抗体が作られる」ところにある。しかしながら、不活化ワクチンと生ワクチン生み出す抗原決定基の違い、免疫環境の違い、またこれらの違いから生み出される免疫応答の違いについては、これまで全く考慮されてこなかった。そのため、本研究計画では広域中和抗体が生み出される免疫学的メカニズムを理解することで、不連続抗原変異を起こしたウイルスに対しても有効性が高い新しいワクチンの開発をめざす。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、過去3年間の本研究計画から、2つの異なる抗原導入方法;不活化ワクチンと感染では、抗体反応に違いがあることをマウスモデルで証明した。インフルエンザウイルに対する中和抗体の主要な標的は、表面糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)であり、広域中和抗体の多くはHA抗原上の共通エピトープを認識している。この共通エピトープは通常表面に出ていないが、経鼻でウリルスが気道上皮細胞(AEC)に取り込まれると、構造変化を起こすことで抗体が認識できるように暴露される。我々は、この過程が肺深部で起こるウイルス増殖で規定されていることを証明し、これが不活化ワクチンで誘導される抗体反応とは大きく異なる部分であった。感染環境下の微小環境では、共通エピトープが表に露出して、これに対応するB細胞が活性化することが分かった。活性化されたB細胞は、近位リンパ節で肺中心を介して増幅される。この共通エピトープに対する抗体を産生するB細胞を増殖させるための微小環境として、肺中心でのリンパ濾胞性ヘルパーT細胞由来のIL-4は、絶対的必要条件であった。したがって、感染局所における共通エピトープの出現と肺中心での共通エピトープを認識するB細胞反応の効率的な増殖が、広域中和抗体を生み出すメカニズムとして必要であることを明らかにした。Trends in Immunology 2020の中で、不活化ワクチンと感染では起こる免疫反応に違いがあることを提唱し、Nature communication (in press) の中でこのコンセプトを証明した。このことから、本研究計画は、当初の計画以上に進展したと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
IL-4産生TFH細胞を誘導するT細胞抗原決定基を同定し、T細胞エピトープをコードするペプチドワクチンとB細胞抗原決定基を組み合わせた広域中和抗体誘導ワクチンの開発に進んでいく。 上記で同定した複数のペプチド抗原を混合して使うことでIL-4産生TFH細胞を強力に活性化することをめざす。一方で、これまで同定した広域中和抗体の結合部位の配列情報と抗原情報を組み合わせることで、AIを利用して予測し、B細胞エピトープを推測する。予測されたB細胞エピトープ情報に基づき、mimetic ペプチドを作製し、T細胞エピトープとB細胞エピトープを組み合わせた新しいワクチンを開発する。
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