2020 Fiscal Year Annual Research Report
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19H03500
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
中村 佐千枝 (平塚佐千枝) 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (60313087)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
富田 毅 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (20302242)
加藤 真良 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (70402104)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 抗転移細胞 / 組織特異的 / 転移前土壌 |
Outline of Annual Research Achievements |
癌が原発巣から転移する際には、転移が起きる前に、転移先の臓器において癌細胞の生着を有利にする“転移前土壌”と呼ばれる環境が形成される。転移を防ぐ方法として、この転移前土壌を消去することが大切である。申請者らは、自然免疫細胞の1つの亜集団のNK(ナチュラルキラー)様細胞が、転移前土壌を解消し転移を抑制する抗転移細胞であることを発見した。この細胞は、肝臓で刺激を受けて教育され、肺で機能するという、新しいタイプの生理機能を持つ。担癌マウス(癌を皮下あるいは同所性に移植したマウス)を用いた研究では、原発巣が小さい初期の段階では、その抗転移能は発揮されているが、原発癌の進行に伴い、その能力が消失することが示唆されている。本研究では、抗転移細胞が転移前土壌を解消する分子メカニズムを徹底的に解明するとともに、細胞の機能が原発癌の進行とともに失われるのはなぜか、抗転移能を回復させることはできないかどうかを動物モデル・細胞生物学・生物化学の複合的観点から明らかにすることを目指している。初年度は、抗転移細胞が、肝臓で教育を受けて活性化された後、肺に移動して威力を発揮するときに、担癌マウスの肝臓と肺における組織特異的な因子が存在するという仮説を立てて解析を行った。肝臓で活性化されて肺に移動した抗転移細胞と、肝臓で活性化されずに肺に移動しなかった細胞の遺伝子発現変化のスクリーニングを行った結果、抗転移細胞の活性化に寄与する候補遺伝子が見出された。2年度は候補遺伝子のうち、強発現させた抗転移細胞の解析から、抗転移能を増強させる因子として凝固系分子を同定し、肺の転移前土壌を個体で消去できることが判明した。抗転移細胞の機能が原発癌の進行とともに失われるメカニズムと、抗転移能を回復させる方法は継続課題とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の抗転移細胞は2つの機能を有する。1つは転移をする前の転移前土壌を消失しうる能力と、2つ目は、転移能力をもつ癌細胞が転移してきた時に、これを殺傷できる能力を備えるものである。これまでに、肺において後者の能力を活性化する組織特異的な因子を中心に探索し、候補因子を同定してきた。2年度は、転移前土壌を焼失させるためのスクリーニングで見出した候補遺伝子のうち、凝固系因子を強発現した抗転移細胞を作成し、マウスレベルで実際の転移前土壌を消去できることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
癌の転移前土壌は、正常の組織が遠隔の原発癌の影響によって変化して形成される。そこは初期には癌の転移を抑制する抗転移細胞と、転移を促進する細胞の混合で構成されているが、原発巣の増大により、抗転移細胞が劣勢となってしまうことが実験的に分かっている。今回の課題のひとつである、抗転移細胞が免疫抑制をうけるメカニズムの解明とその解除法に焦点をあてる。すでにスクリーニングの結果から、抗転移細胞の免疫抑制状態を解除可能な候補遺伝子を得ており、この分子を中心に進める予定である。
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