2020 Fiscal Year Annual Research Report
がん微小環境の間質細胞におけるSrcの機能とがん進展
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19H03504
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡田 雅人 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (10177058)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | がん微小環境 / 線維芽細胞 / Src / Csk / TGF-beta |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、がん微小環境の間質細胞が、がんの進展に重要な役割を担うことで注目されているが、その分子機序は不明のままである。申請者らは近年、がん進展には、がん微小環境の線維芽細胞におけるがん原遺伝子Srcの活性化が重要なことを見出した。そこで本研究では、がん微小環境因子におけるSrc活性化機構とがん進展促進の分子機序を解明することを目的とした研究を行なった。一方、ある種のヒト腫瘍においてSrcの抑制因子Cskに機能欠損変異が見出され、Csk変異によるSrcの活性化がSrcの機能解析の有用なモデルともなることが明らかとなった。そこで、Csk変異を導入した線維芽細胞やマウス個体を用いて、Src活性化のがん増殖や進展における寄与を解析し、以下の成果を得た。 まず、がん微小環境において発現亢進するTGF-betaによってSrc発現が顕著に上昇する細胞を用いた解析を行い、Srcの遺伝子発現がTGF-betaの下流因子Smad2/3が細胞増殖に係る転写因子CREBと協調的に作用して誘導されることを明らかにした。また、Smad2/3とCREBが協調的に作用するSrc遺伝子のエンハンサー領域を同定し、遺伝子破壊実験によりその重要性を確認した。一方で、Csk変異によりSrcが活性化した線維芽細胞とがん細胞を共培養したがん微小環境モデルを用いた解析より、悪性化したがん細胞の浸潤促進にSrcの活性化に伴う増殖因子HGFの分泌が重要なことを見出した。さらに、Csk変異マウスへの肺がん細胞の移植実験より、宿主のがん微小環境のSrc活性化ががん細胞の増殖や浸潤を顕著に亢進することを明らかにし、Csk変異マウスを用いた発癌実験(APC変異とDDS処理)からは、がん細胞自体のSrc活性化もがん進展促進にきわめて重要な役割を担うことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、がん微小環境におけるSrcの活性化の意義を明らかにし、その結果より新たながん悪性化の制御機構を見いだすことを目的としている。これまでの研究によって、Csk変異を導入した細胞系およびモデル動物を用いた基本的な研究はほぼ終了し、がん微小環境およびがん細胞自体におけるSrc活性化の意義を明確に示すことが出来ている。特に、TGF-betaによるSrcの発現亢進に関わるエンハンサーの同定に世界で初めて成功し、その詳細な機能解析を現在精力的に進めている。以上より、本研究はおおむね順調に進んでいると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、これまでに観察されてきた現象の分子機序解明を目指して研究を推進する。まず、Srcの発現誘導機構に関しては、Smad2/3とCREBが協調的に作用するSrc遺伝子エンハンサーの詳細な機能を分子レベルで明らかにする。また、TGF-betaに応答してSrcの発現上昇が認められるがん細胞と応答しないがん細胞を見出しているので、それらを比較解析することにより、がん悪性化に伴うSrc発現上昇の鍵を握る分子を同定する。さらに、Csk変異によるがん微小環境の変容の実態を、組織レベル(がん細胞、線維芽細胞、免疫系細胞など)で検証する。以上の成果を本年度内に取りまとめて論文発表する予定である。
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