2021 Fiscal Year Annual Research Report
スタチンが効くがんを見極める予測因子の探索とがん転移抑制剤に向けたエビデンス構築
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19H03514
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
割田 克彦 鳥取大学, 農学部, 准教授 (40452669)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
保坂 善真 鳥取大学, 農学部, 教授 (00337023)
太田 健一 香川大学, 医学部, 助教 (50403720)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スタチン / 薬剤感受性 / 細胞運動 / 低酸素応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
低酸素誘導因子HIF-1は、解糖系の亢進や細胞増殖、上皮間葉転換、転移浸潤、薬剤耐性といったがんの悪性化に関わる様々な細胞生理に関与することが知られている。しかし、低酸素下におけるスタチンの制がん効果については報告が少ない。2種類の肺がん細胞株(HOP-92およびNCI-H322M)を用いて50%阻害濃度を比較したところ、通常酸素下および低酸素下ともに顕著な差はみられず、スタチンの制がん効果は低酸素による薬剤耐性の影響を受けないものと考えられた。また、スタチン高感受性のHOP-92では低用量(0.1μM)のスタチンで通常酸素下および低酸素下における細胞遊走能、浸潤能が有意に抑制された。スタチン耐性のNCI-H322Mでは、興味深いことに、低酸素下におけるHIF-1αの発現量がスタチンの用量依存的に有意に抑制された。また、HIF-1で誘導される血管新生促進因子のうち、VEGFの発現増加がみられたが、bFGFやAngiogeninの発現は抑制されていた。さらに、血管新生抑制因子であるTIMP1、TIMP2の発現は、スタチンにより増加することが示された。以上から、スタチンは低酸素環境においても薬剤耐性の影響を受けることなく制がん効果を発揮し、かつ、スタチン抵抗性のがん細胞においても、HIF-1に関連したがんの悪性化因子を抑制する可能性が示唆された。 一方、メタボローム解析において酸化還元関連物質を検索したところ、(1)NCI-H322Mに比べてHOP-92では総Glutathione量が低値を示し、(2)スタチン添加時のGSH/GSSG比はHOP-92で減少するのに対しNCI-H322Mでは増加することが示された。すなわち、スタチン添加時の酸化ストレス状態や酸化ストレスへの応答が細胞間で異なる可能性が示唆され、がん細胞のスタチン感受性に関連する一要因になり得ると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低酸素条件にさらされたがん細胞に対し、スタチンが血管新生促進因子および血管新生抑制因子に及ぼす影響が明らかになりつつある。また、スタチン耐性がん細胞と感受性がん細胞では、スタチンにより引き起こされる酸化ストレスの細胞応答が異なることが示され、新たな視点が開けたことから、研究の進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
低酸素誘導因子HIF-1によって転写促進される血管新生促進物質の発現量について、アレイ解析を用いて評価した結果、スタチンががん細胞の低酸素応答に影響を及ぼすことが示された。しかしながら、本現象は現在、肺がん細胞株(HOP-92およびNCI-H322M)でのみ確認しているデータである。今後は、他の臓器由来のがん細胞でも普遍的な反応がみられるのか精査する。 また、スタチンを処置したがん細胞ではNADP+量とNADPH量が変化することが明らかとなってきた。今後は、スタチンがGlutathione合成経路の酵素活性や細胞内の酸化還元状態、酸化ストレス応答反応に及ぼす影響も視野に入れて、スタチンの制がん効果を左右する因子について検討する。
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Research Products
(3 results)