2020 Fiscal Year Annual Research Report
Understanding of defective developmental gene regulation responsible for motor neuron degeneration
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19H03545
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐橋 健太郎 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (90710103)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
勝野 雅央 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (50402566)
井口 洋平 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (80790659)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脊髄性筋萎縮症 / 神経変性 / 発達異常 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊髄性筋萎縮症(SMA)はSMN1遺伝子欠損によるSMNタンパク質の不足により、脊髄や脳幹の下位運動ニューロン変性に伴い進行性骨格筋萎縮をきたす乳児死亡最多の遺伝性疾患であり、常染色体劣性遺伝形式をとる。SMNはユビキタスに発現し、全ての細胞の生存に、特に胎生期に不可欠であるとされ、その発現および需要性が発達期で高いことが判明している。SMNはmRNA前駆体のスプライシングやヒストンmRNA代謝に関わる核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)の会合や、RNA軸索輸送に重要とされるため、SMAではRNA病態説が唱えられているが、SMN不足の結果による、下位運動ニューロン脆弱性の基盤となる早期病態は解明されていない。ノンコーディングRNA(ncRNA)は翻訳を受けないが生理機能を有するRNA分子であり、遺伝子発現の制御機能を有し、神経発生・分化に関わっている。ゲノムDNAの90%以上は転写される一方で、mRNAを占める割合は全RNAの2%にも満たなく、残りの多くのncRNAによるmRNA発現調節の可能性が注目されている。そこでSMA病態メカニズムに関し、新たにncRNAを介するRNAネットワーク異常を起因とする場合も含め、胎生遺伝子の制御異常による発症機構の検討が重要と考えている。本研究ではSMAモデルマウスとその胎仔運動ニューロン、患者のiPS細胞由来分化運動ニューロンにおけるmRNAおよび小分子ncRNA(特にmiRNA)の網羅的解析を通じて細胞変性の発端機序を明らかするとともに、ニューロン変性過程のRNA変化という知見について患者生体試料などを用いて検証し、疾患バイオマーカーの開発と新規治療標的分子の追求につなげていくことを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
胎生期13日齢のモデルマウス胎仔より脊髄運動ニューロンを回収し、RNAシークエンスによるRNA発現およびスプライシング解析を行なっている。我々は運動ニューロンの胎仔毎のプロファイリング獲得に成功し(SMAおよび同胞正常ヘテロマウス、各4匹)、mRNA発現解析から進めている。予想に反し、SMAにおいて統計学的に有意な発現変化のみられたタンパク質コード遺伝子は10種程度しか確認されていないが、脊髄肢節運動ニューロンに特異的に発現し、ニューロン発生・分化に重要なA遺伝子の発現低下が見出されている。単離ニューロンを用いてのウエスタンブロットおよびqRT-PCRによりA遺伝子産物の発現低下を確認し、胎仔脊髄の免疫染色により運動ニューロンのサブタイプ特異的な発現低下を確認している。また脊髄運動ニューロンの特殊培地下の初代培養ではSMAにおいて特徴的軸索変性がみられ、同部のおけるオートファジー関連マーカーの亢進が判明している。本所見は野生型マウス胎仔脊髄運動ニューロンの内因性Smn1あるいはA遺伝子のノックダウンの系において再現された。さらにA遺伝子の強制発現による、軸索変性およびアポトーシス誘導の抑制が観察され、SMN欠乏下流の、細胞自律的な発達障害機序を示唆する結果が得られ、実験手法の有効性が確認されている。またパイロット試験として、未治療患者3名、コントロール3名の検討ではあるが、マイクロアレイ解析により、発現量が確保された脳脊髄液中RNAのうち、SMA群にてシグナル比が2倍以上あるいは0.5倍以下のRNA群が抽出されている。続いて核酸医薬投与前後の患者3名、別コントロール3名に対し解析を行い、両アレイに共通して発現変化していた約20種のRNAを同定している。発現の多くが、治療後にコントロール方向に変動することを見出しており、これらRNAは病態を反映する可能性が考えられている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに得られている研究成果により、SMA運動ニューロン病態の形成に関連すると考えられるA遺伝子の動態に引き続き注目していく。我々はアストロサイトや大脳皮質ニューロンのマウス初代培養系を作製し、A遺伝子の発現がみられないことを確認している。そこで純化したSMA脊髄運動ニューロンの初代培養系を活用し、RNAシークエンスにより、A遺伝子発現低下に伴う、特異的な神経発生・分化の異常をもたらすパスウェイの解析を予定している。A遺伝子異常について、倫理審査承認が得られ次第、患者iPS細胞由来分化運動ニューロンを用いた再現性確認を進めていくが、当該ニューロンの、A遺伝子を発現するニューロンサブタイプとしての発達形質の有無の検証が求められる。また我々はエレクトロポレーションによる、A遺伝子コンストラクトのSMAモデルマウス胎仔への胎生期12日齢の早期神経管内投与に成功しているが、遺伝子発現回復による明確な表現型のレスキュー効果は観察できていない。本アプローチのA遺伝子導入時期の限界が考慮されており、現在、神経細胞特異的な発現誘導プロモーター下のA遺伝子トランスジェニックマウスの作製に着手しており、SMAモデルマウスとの交配による表現型に対する効果の検証を計画している。また患者髄液中の病態関連RNAについては、多数例での検証に向けて準備を進めており、最終的に候補RNAに関しては、初代培養マウス脊髄運動ニューロンや患者iPS細胞由来分化運動ニューロンを用いての検証に展開していく。さらにこれら培養細胞の上清中のエクソソームの分離と、エクソソームに含まれる病態関連RNAの発現も検証し、RNAのバイオマーカーとしての利用可能性を検討するリバーストランスレーショナルリサーチを進めていく。またRNA分子の神経発生・分化に対する機能性や、A遺伝子発現との関連性について詰めることも重要と考えられる。
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