2020 Fiscal Year Annual Research Report
統合失調症の抑制性介在ニューロン変化へのμ型オピオイド受容体の関与
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19H03580
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
橋本 隆紀 金沢大学, 医学系, 准教授 (40249959)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
紀本 創兵 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (00405391)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヒト死後脳 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の結果から、MORの発現が抑制性の介在ニューロンだけでなく、興奮性の錐体ニューロンにも発現していることが示唆された。そこで、ヒト大脳皮質中側頭回の各層より切り出された単一ニューロンのRNA sequencingによって作成された遺伝子発現データベース(Allen Brain Atlasにより公開)を用いてMORを発現するニューロンの特性(興奮性または抑制性)と層分布を解析した。MORは皮質3-6層において錐体ニューロンの34-48%に89-106 count per million read (CPM)の発現が認められた。またMORは、皮質2-6層の介在ニューロンの14-32%に135-208 CPMの発現が認められた。すなわち、MORは介在ニューロンの一部に強く発現すると同時に、多くの錐体ニューロンにも介在ニューロンに比べ低い量で発現していることが判明した。さらに、統合失調症の背外側前頭前野において認められたミュー型オピオイド受容体(MOR)の増加について、疾患特異性の評価を試みるため、精神神経疾患のない対照者ならびに統合失調症、双極性障害、大うつ病性障害の患者の1名ずつから成るテトラド40組から得られた脳組織を準備した。各テトラドは、性別は同じで年齢および死後経過時間が近い対照例、統合失調症患者、双極性障害患者、大うつ病性障害患者から成り、診断別グループの間で、年齢および脳組織のpHには、分散分析による統計学的な有意差は検出されていない。40テトラドの各症例の凍結脳組織より背外側前頭前野(ブロードマン領域9)の灰白質組織を切り出しTrizol液に攪拌溶解し、それよりRNAを抽出した。Trisol攪拌液が作成されるまでの組織の保存期間にも4診断グループの間で有意差は無く、RNAの保存状態の指標であるRNA integrity indexにも診断グループ間で有意差は無かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルスの蔓延により、ヒト死後脳組織を貯蔵している共同研究先のピッツバーグ大学精神医学部門への渡航が出来なくなった。同部門の研究室も一時閉鎖となり、2020年の夏より再稼働したが、実験をおこなう人数や時間についての制約が202年度中は続いた。これらの理由により、ヒト死後脳組織の解析が送れ、統合失調症におけるMOR発現増加の疾患特異性の評価のための実験が進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
統合失調症におけるMOR発現増加の疾患特異性の評価のための2020年度に準備したRNAをcDNAに変換し、MORの発現レベルをreal-time PCRで増幅する。Real-time PCRでは、MORの遺伝子断片と同時に内部標準遺伝子としてbeta-actin, cyclophylin, glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)の断片を増幅し、MORの発現レベルはこれら内部標準遺伝子の発現の平均に対する比として求める。このようにして得られたMORの発現について、診断グループを主要因として、性別、年齢、死後経過時間、RNAの保存状態、脳組織のpHを共変数とする分散分析を行い、さらに各精神疾患に共存する自殺、物質関連障害、抗精神病薬の使用、ベンゾジアゼピン系及びバルプロ酸の使用、抗うつ薬の使用、ニコチンの使用などの影響を患者をこれらの要因の有無で2群に分けて比較する。さらに、2019年度の研究ではMORの発現が示されたパルブアルブミンニューロン、ソマトスタチンニューロン、錐体ニューロンに特異的に発現し、それぞれのニューロンの機能を担う遺伝子の発現についても4グループ間でMORと同様の比較を行い、それぞれの疾患グループの中でMORの発現との相関関係を評価する。
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