2019 Fiscal Year Annual Research Report
メタボローム・ゲノム解析を中心としたナルコレプシーの病態解明と個別化医療への応用
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19H03588
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
宮川 卓 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 主席研究員 (20512263)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 睡眠 / メタボローム解析 / ヒスチジン / ヒスタミン / 脳脊髄液(CSF) / ナルコレプシー / パスウェイ解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナルコレプシーは睡眠の疾患であることから、ナルコレプシー研究で血液サンプルによる解析には限界があり、脳の状態をより反映したサンプルである脳脊髄液(CSF)を用いたメタボローム解析を実施すべきである考えた。これまでCSFは代謝物の濃度が血液よりも低くメタボローム解析の実施が容易ではなかった。しかし最近キャピラリー電気泳動と高分解能質量分析計を接続した新たな方法(CE-HRMS)が開発されたことから、これを用いて代謝物を網羅的に解析した。まずナルコレプシー14例とコントロール17例のCSFを我々は有していたことから、先駆的な研究として、これらをCE-HRMSにて測定した。その結果、268種類の代謝物の測定が可能であることがわかった。測定された各代謝物を比較したところ、必須アミノ酸の一つであるヒスチジンの濃度がナルコレプシー群で有意に高いことがわかった。 そこで追加で得られたCSF(合計ナルコレプシー18例とコントロール28例)も含め、ヒスチジンとヒスタミンに標的を絞って高効率液体クロマトグラフィー(HPLC)によりCSF中の濃度を測定した。その結果、ヒスチジンの濃度がナルコレプシー群で有意に高いことが再現され、逆にヒスタミン濃度はナルコレプシー群で有意に低いことがわかった。 次に、ナルコレプシー群とコントロール群間で差が認められる代謝物が、特定の経路に存在するかを明らかにするために、パスウェイ解析を実施し、最も有意なパスウェイとしてグリシン、セリン、トレオニンの代謝パスウェイが検出された。興味深いことにナルコレプシーと関連したアミノ酸は、全て糖原性アミノ酸であり、さらにコントロール群に比べナルコレプシー群で同様に高い濃度を示していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CSFを用いた網羅的なメタボローム解析は、これまでほとんど行われたことがない。実際にCE-HRMSによりメタボローム解析を実施した結果、CSF中に268種類の代謝物の測定に成功した。これらのことから、本研究は新規性の高い研究であると考えられる。さらにナルコレプシーとコントロール間で、これら268種類の代謝物の濃度を比較した結果、有意差の認められた代謝物として、ヒスチジンを同定することに成功した。サンプルサイズも増やし、異なる測定方法であるHPLCによる解析においても、ヒスチジンとナルコレプシーの関連は再現されたことから、CE-HRMS時の測定エラー等ではなく、確かな結果であると考えられた。 ヒスチジンは、ヒスチジン脱炭酸酵素の働きによりヒスタミンに合成されることが知られている。同程度にヒスチジンからヒスタミンが合成されている場合、ヒスチジン濃度が高ければ、ヒスタミン濃度が高くなることも想定される。しかし今回の結果のように、逆にナルコレプシー患者ではヒスタミン濃度が低いということは、ヒスチジンからヒスタミンへの合成が適切に行われていないことが示唆された。 パスウェイ解析により同定されたナルコレプシーと関連するアミノ酸(上記のグリシン、セリン、トレオニンの代謝パスウェイ以外に、同じくアミノ酸であるアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝パスウェイも同定)は、全て糖原性アミノ酸であり、コントロール群に比べナルコレプシー群で高い濃度を示していた。これまでの我々の研究で、ナルコレプシー患者では脂肪酸の代謝がうまく働いていないことを明らかにしており、本研究で見出したナルコレプシー患者で認められるCSF中の糖原性アミノ酸濃度の上昇は、脂肪酸代謝を補完するために起こっていることが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
CE-HRMSによりCSF中のメタボローム解析を実施した症例においては、ゲノムワイドなSNP(一塩基多型)タイピング情報又はDNAメチル化情報を組み合わせたオミックス解析を実施する必要がある。これらSNPやDNAメチル化の情報とCSF中の各代謝物の濃度の相関解析を行うことで、CSF中の代謝物に影響を与える要因の検出が可能になる。さらに、これら症例は睡眠ポリグラフ検査(PSG)と睡眠潜時反復検査(MSLT)が実施されている。そこで、これら睡眠検査の結果と各代謝物の濃度に関連性が認められるか解析を実施する。この解析により睡眠に影響を与えている代謝物を同定することが期待される。 前述したヒスチジン・ヒスタミンとナルコレプシーとの有意な関連から、今後、ヒスチジンからヒスタミンへの合成を促進することにより、ナルコレプシーの症状が改善するか検証する必要がある。 今回測定された代謝物は主に水溶性の高いものである。脂肪酸や脂質系の測定も今後実施する必要がある。LC-TOFMS(Liquid chromatography-time of flight mass spectrometry)等の方法を実施することを考えているが、CSF中の脂肪酸や脂質系代謝物の濃度は低いものが多いことから、他の方法も適宜考えていく必要がある。
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Research Products
(4 results)