2019 Fiscal Year Annual Research Report
脂肪細胞のインスリンシグナル障害による遠隔病理作用発現機構の解析
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19H03709
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小川 渉 神戸大学, 医学研究科, 教授 (40294219)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | インスリン / インスリン抵抗性 / FoxO1 / Leukotriene B4 / NASH / 5-lipoxygenase / PDK1 |
Outline of Annual Research Achievements |
脂肪細胞特異的PDK1欠損マウスでは脂肪細胞のインスリン作用の障害に加え、全身性のインスリン抵抗性と高血糖が生じた。さらに、このマウスは9か月齢までに、肝細胞の脂肪蓄積、風船様変性、間質線維化を伴うNASH様組織像を呈した。脂肪細胞でPDK1に加えFoxO1を欠損するマウスを作成したところ、脂肪細胞特異的PDK1欠損マウスで見られたインスリン抵抗性や高血糖、NASH様組織像はほぼ完全に改善した。脂肪細胞特異的PDK1欠損マウス、脂肪細胞特異的PDK1/FoxO1二重欠損マウス及び野生型マウスの脂肪組織のリピドーム解析を含むオミクス解析を行い、脂肪細胞特異的PDK1欠損マウスでは脂質メディエーターLeukotriene B4(LTB4)の産生増加とLTB4産生律速酵素である5-lipoxygenase (5-LO)の発現増強を認め、脂肪細胞特異的PDK1/FoxO1二重欠損マウスではこれらの変化が改善していた。そこで、脂肪脂胞特異的PDK1欠損マウスに5-LO阻害剤やLTB4受容体BLT1拮抗剤を投与したところ、インスリン抵抗性や高血糖が改善した。さらに、全身性BLT1欠損かつ脂肪脂胞特異的PDK1欠損マウスでも、インスリン抵抗性や高血糖は改善していた。
以上から、脂肪細胞ではインスリンシグナルが5-LOの発現抑制を通じてLTB4産生を阻害しており、脂肪細胞でインスリン作用の障害がおこると、LTB4が過剰に産生され、インスリン抵抗性発症することが明らかとなった。
また、脂肪細胞でLTB4産生の意義をさらに明らかとするため、Cre依存性に5LO及び5LOの活性化タンパクFLAPを同時に発現させるマウス及びLTB4産生の最終酵素であるLTA4Hを発現させるマウスを樹立した。脂肪細胞特異的Cre発現マウスとの交配も開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度までに脂肪脂胞特異的PDK1欠損マウスでインスリン抵抗性糖尿病やNASHが発症し、脂肪細胞特異的PDK1/FoxO1二重欠損マウスでこれらが改善するという観察に端を発し、インスリンが5-LOの発現制御を介してLTB4の産生を調節するという、全く新規なシグナルクロストークの存在を明らかとした。また当初の予定通り、脂肪細胞におけるLTB4過剰産生の病理学的意義お理解をめざし、薬理学的検討に加えて、全身性BLT1欠損マウスを用いた遺伝学的検討も行い、LTB4過剰産生がインスリン抵抗性及び高血糖の発症に重要な役割を担うことを明らかとし得た。
これらの結果は、全く新規なインスリン作用を同定したものであるとともに、インスリン抵抗性の発症機構についても重要な視点を与える点で、本研究の狙いに沿った知見を得たもののと考えられる。
さらに当初の予定に従って、脂肪細胞でLTB4産生律速酵素である5LO及び5LOの活性化タンパクであるFLAPを同時に発現させるマウス及びLTB4産生の最終酵素であるLTA4Hを発現させるマウスの樹立に至り、脂肪細胞特異的Cre発現マウスとの交配により、脂肪細胞特異的にLTB4産生酵素を過剰発現するマウスを確立できた点も踏まえ、本研究は順調に進捗していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に従って、脂肪細胞特異的に5LO及びFLAPを同時に発現するマウス、及び、脂肪細胞特異的にLTA4Hを発現するマウスを産生し、これらのマウスの代謝表現型や脂肪司式の生化学的変化について解析する。
また、現在までに得られた知見をヒトの試料で検証するため、NASHの組織学的所見やグルコースクランプ法で測定した詳細なインスリン抵抗性評価などを含む、質の高い情報を備えたNASH患者やインスリン抵抗性を伴う2型糖尿病患者において、血漿中のLTB4に加えて、各種の炎症収束性脂質メディエーター濃度を、LC-MS/MSを用いたシステムで分析する。これらの脂質メディエーター濃度と各種臨床情報との比較検討により、ヒトのインスリン抵抗性やNASHの病態におけるLTB4はじめとした脂質メディエーターの病態的意義を検討する。
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[Journal Article] The PDK1-FoxO1 Signaling in Adipocytes Controls Systemic Insulin Sensitivity Through the 5-lipoxygenase-leukotriene B 4 Axis2020
Author(s)
Hosooka T, Hosokawa Y, Matsugi K, Shinohara M, Senga Y, Tamori Y, Aoki C, Matsui S, Sasaki T, Kitamura T, Kuroda M, Sakaue H, Nomura K, Yoshino K, Nabatame Y, Itoh Y, Yamaguchi K, Hayashi Y, Nakae J, Accili D, Yokomizo T, Seino S, Kasuga M, Ogawa W.
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Journal Title
Proc Natl Acad Sci U S A.
Volume: Online ahead of print
Pages: ahead of print
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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